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探偵と妖怪  作者: 相模曹壱
第2章 立野山の三年
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夢の中で

2022年10月10日 0000 山城邸

僕は目の前の光景に困惑していた。

今はすっかり夢の中だが、妙に現実味がある夢だ。

「すまん、忠義。」

「いや、事情は分かったから。」

僕の目の前にいるのは、妖怪としての僕“忠正”だ。彼は今土下座をしており、必死に謝っている。

「出来心で、術を発動させたらこうなってしまったのだ。本当に申し訳ない。」「いや、繰り返し言うが事情は分かった。」

彼が必死に謝っている理由は、彼が興味本位で発動させてしまった術が原因だ。

「まさか、俺が異界を作ってしまうなど。」

そう、彼はついうっかり異界を形成してしまったのである。

彼が形成した異界は、どうやら現実世界にある僕の影とつながっているらしく、その中は霧が濃い山林だという。そして、そこに彼の配下である木の葉天狗の集落が点在していた。 このことを聞いたのが、今から30分ほど前。今は、木の葉天狗の集落を回り終えた所である。

「木の葉天狗は僕たちに協力的だし、彼らは現実世界にも存在で

きるから、間者としても使えるだろう。何がいけない。」荒事は苦手だが、偵察や情報収集などを請け負ってくれる。

その上、隠密性も高く、物理的な探知にも強いのだ。

だが、忠正は違った。

「お前は生きた城だよ。一人の影から、何百という妖怪が出てくる。想像してみろ、たった一人と戦っていたはずが、いつの間にか大多数に囲まれている。」

「…、確かに、脅威と見られてもおかしくはないな。」「だろ。」

「…とりあえず、起きたら事務所に連絡しよう。いい事の様に報告すればいい。」


翌日 1200 佐川探偵事務所にて。

所長の口に含まれていたコーヒーが、僕の顔面に降りかかる。相当な驚きのようで、ゴホゴホむせていた。「有馬お前、なんちゅう事を言い出す。」田中先輩も驚いていた。

今日この場にいるのは、僕含め3人だ。そして、秘密を知る人たちでもある。「有馬。君の別人格がやらかしたのか。」所長、“佐川涼子”のぐったりとした声が、会議室に響いた。

「はい。出来心でやっちまったと。今は猛反省しています。」僕がそう言うと、今度は田中先輩が言った。

「まあ、依頼をより早く終わらせる事が出来るから、悪い事ではないだろう。」そういいながら、田中先輩はコーヒーをすすった。

「有馬、君はこのことは誰にも話していないな。」所長が落ち着いて、開口一番に行ったのがそれだった。

「はい。」「なら、この事は他言無用だ。判ったな。」

数分後、僕は帰路についていた。あの後所長から念押しされ、この事は絶対に言ってはならない秘密とされた。

だが、数週間後にその約束は破られることになる。

♢ 同年11月9日 0900 県立立野高校 その日、信貴山に季節外れの雪が降った。まるで、その日に起こる凶事の前兆の様に。

♢ 第一の事件は、ある1年生の持ち物が盗まれた事件だ。関係者の話曰く、体育の時間から帰ってきたときに、財布の中身がなくなっているのに気が付いた。

その男子生徒は、性格に難があり、よく同級生からカツアゲを行ったりしていたという。

なお、その財布の中には、カツアゲで得た金のみが入っていた。合計で10万円程度である。

第二の事件は、2年生の生徒が階段から転落。それが原因で両足を複雑骨折。入院が必要な程度のけがを負った事件だ。

この2つが、1日のうちに起きた。

共通して言えることは、黒い影のようなものが、直前に見えたという事だ。

そして、事の真相を知るのはたった一人である。

ここは僕の影の中にある異界。その中の、現世と異界をつなぐ小屋の中だ。広さは8畳ほどで、囲炉裏や土間、かまどがある。

昔話に出てくる、かやぶき屋根の家が一番近いだろう。

その中に、僕を含めて4つの姿があった。

「なんて事をやってくれた。」

僕は目の前で正座している木の葉天狗を叱っていた。

「いや、ただの外道を痛めつけただけですよ。」

「そうです。荒事を好まないだけで、やるときはやります。」 そう言った木の葉天狗、“善司(ぜんじ)”“善三(ぜんぞう)”である。

この2体は血気盛んであり、悪人に対しては殺す以外の目に合わせてもいいと思っているのだ。

「だとしても、やりすぎだ。」そう言うと、彼らはしゅんとした。 十分反省したと思い、僕は口を開いた。

「とりあえず。君たちの作っている秘薬を持ってきてほしい。」

「何をするおつもりで。」聞いてきたのは、薬の研究をしている "業丸”だ。眼鏡をかけ、体は常に薬品のにおいが漂っている。

「けが人を治す。」

一言言うと、善司が食って掛かった。

「正気ですか棟梁。」

これを制したのは、善司の暮らす集落の長”玄僧”だ。

「善司、お前は黙っとれ。」「はっ。」

「して、忠義。お主は何故外道どもに情けをかける。」

玄僧の問いに、僕はよどみなく答えた。

「君たちを守るためだ。」「ほう。」感心したように声を上げる玄僧。

「まず、君たちは普通の人から見ればただの島だ。だが。」

「見える奴には、見えちまう。そういう事ですか。」

玄僧の答えに、僕はゆっくりと頷いた。

「そういう訳だから、早いとこ用意してほしい。」

「御意。」頭を下げる薬丸。

数日後、女子生徒は何事もなかったように登校した。

だが、男子生徒の財布の中身は戻らない。

代わりに、一枚の紙があった。

”次は、君の命をいただく。外道の真似は止せ。”

その日以来、男子生徒は人が変わったようになった。

 そして、彼は秘密を暴かれた。

 数日後、佐川探偵事務所。

「有馬、君があの騒動の犯人なのかい。」問い詰めるように聞いた東雲貞夫の声が、鼓膜を叩いた。その後ろでは、頭を抱える所長達の姿が。

「ああ、厳密にいえば、僕の部下だな。」「・・・そうか。」貞夫はそういうと、所長達に向き直った。「とのことだが、どうする。」

所長の声が響いたのは、それから数分した時だ。

鉛のように重い口を開き、悶えた言葉を紡ぎだす。

「彼の、もう一つの人格。忠正の興味本位だ。」

  「俺が説明する。」忠正が、口を動かした。そこからは以前聞いたそれである。 

全てを聞いた貞夫たちは、ため息を吐いた。

「なぜその事を秘密にしていた。」「余計な混乱を防ぐためだ。」

沈黙。破ったのは貞夫の声だ。

「・・・まったく。そういう事なら早く言ってくれ。」呆れた声色でそういい、僕の肩を叩いた。

「有馬、暫く昼食代をおごってくれ。」「やめてくれ破産する。」

「こんな秘密を隠していた。当然だろ。」

「だな。」「ここにいる全員分、頼むぞ。」

抗議しようにも、今回の一件は僕の管理不届きが原因である。

そこに助け舟を出す者が2名。

「まあまあ、流石に初回だから大目に見てやってほしい。」

「そうです。今回は見逃してあげてください。」

声を上げたのはイーラと龍田だった。

それから押し問答の末、今日の昼食代は僕持ちとなった。

だが、金額を見た途端に気を失ってしまったのは悪くないと思う。


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