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十年前
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26 悪役後輩になるはずだった人が望むこと⑥(過去編・最終話)


「姫香っ!?」


 琉生の焦った声が聞こえる。

 その腕の中、()()()()夏妃が叫ぶ。


「姫香! 姫香! 聞いてる? ごめんね! 私またアンタの気持ち無視して、自分の考えばっか押しつけて……!」


 私に誘導されたとも知らずに、夏妃がぼろぼろ泣きながら謝ってくる。


「夏妃……なのか?」

「姫香っ、約束するよっ! 私、超親バカになるから」

「夏妃」


 興奮している夏妃は、琉生からの呼びかけにも気づかない。


「アンタが生まれ変わってきたら、いっぱいいっぱい甘やかす!」

「夏妃」

「絶っ対に、寂しい思いなんかさせない!」


 相変わらずの夏妃の単純っぷりに、笑いがこみあげてくる。盛りあがってるところ悪いけど、琉生の存在にも気づいてやって?


 それに、一人じゃ子供はできないでしょ?


「夏妃っ!」

「松任谷……くん?」


 琉生の何度目かの呼びかけに、ようやく夏妃が気づく。


「夏妃……なんだな?」

「あ、えっと……うん」


 夏妃の見ている前で、琉生の顔がくしゃっと歪んだ。それでもどうにか涙は堪えたらしく、口元に柔らかな笑みを浮かべている。


 こんな表情、今日一度も見なかったと気づく。

 琉生は自分で思うよりずっと早くから、私と夏妃の入れ替わりに気付いていたのかもしれない。


「っ、夏妃っ!」


 ぎゅっと抱きしめられた瞬間、夏妃が動揺するのがわかった。


「もう会えないと思った……!」

「まっ、松任谷くんっ!?」

「……マジでもう駄目かと」


 夏妃の感情に直結している私の心臓が、ドクドクドクドク鼓動を速めていく。


「ごめん。でも私……姫香に体を返さなきゃって」

「急にいなくなったこととか……またこうやって戻ってきたこととか、いろいろ聞きたいことはあるが……今はいい」


 少し体を離した琉生が、じっと顔をのぞき込んでくる。


「夏妃。俺、お前のことが好きだ」

「えっ……」

「昨日は付き合ってるってことにすればいいとか適当なこと言ったけど、本当はあんなことが言いたかったわけじゃない。お前の置かれている状況を思って今まで言えなかったが、でもこうして戻ってきたなら──」

「待って!」


 手を突き出して琉生から体を離した夏妃が、ためらいがちに告げる。


「私も、松任谷くんのこと……好きだよ。でも、駄目なの。松任谷くんとは付き合えない」

「え?」


 え? なんで?


「私、姫香のために生きるって決めたから」


 え? どういう意味?


「……どういう意味だ?」


 私も聞きたかったことを質問した琉生に、夏妃が答える。


「私、姫香のママにならなきゃいけないの。早く姫香を外に出してあげなきゃいけないんだよ。だから早く結婚相手を見つけなきゃ。……あれ、そういえばこの世界って、何歳から結婚できるんだろう?」

「……この世界?」

「あっちは男女ともに18歳だったけど、何年か前は違ったみたいだし。ねえ、結婚って何歳からできるの?」

「え? ああ、男は18歳だけど、女は16歳から……のはず」

「良かった。思ってたより二年早く結婚できる」

「夏妃、ちょっと待て……」

「でも相手は今からでも探しておかなきゃ──」

「夏妃っ」


 琉生が夏妃の言葉を遮る。


「ちょっと、ちょっと、落ち着け」


 アンタも結構動揺してるみたいだよ。


 私も夏妃の思考にはついていけてないけど。

 私、『早く』なんて言ってないよね?


「なぜ、いきなり結婚の話になる?」

「そりゃ結婚しなくても子供は産めるけど、私はそんなことしたくない。私のお母さんがそうだったから、自分の子供に同じことはしたくないの」

「……え?」


 さらりと自分の話をした夏妃に琉生が驚いている。私は以前聞いたことがあったけど、琉生は初耳だろう。


「それに、姫香は両親からの愛情を欲しがっているんだから、私だけじゃなくて、私と一緒に姫香を愛してくれる結婚相手を見つけなきゃなんないでしょ?」

「──それは、わかる」


 琉生が意を決したように告げる。


「でも、だったら……相手が俺でもいいだろ?」


 そう、そういう話!

 良かった、軌道が元に戻って。


 なのにまた夏妃が話をややこしくする。


「ダメだよ。だって、松任谷くんは同い年だから。最低でも二年待たなきゃいけないし。それに──酷いこと言ってごめんね。子育ては愛情だけでは駄目なの。経済力も必要だから」

「っ……」


 夏妃のバカッ!


 そりゃアンタは経済的に苦労してきたみたいだし、そこは譲れない条件なのかもしれないけれど。でもそんなこと言われたら、まだ中学生の琉生は反論できなくなっちゃうじゃない!


 焦んなくても大丈夫だから。

 琉生は真面目だし、きっと堅実な人生歩んでいくタイプだよ。


「もちろん私も仕事はするよ。だけど出産育児の間は働けない期間もあるし、やっぱり相手にもそれなりの経済力がほしいから」


 だからアンタが結婚とか出産とかを急ぎさえしなきゃ、全部丸く収まるんだって!


 もうやだ。

 夏妃にははっきり言わなきゃダメだった。


 私が伝えたかったのは「琉生と付き合ってもいいよ」って、ただそれだけだったのに。


 どっと疲れが押し寄せてきて、なんかもうどうでもよくなってきたとき、琉生が静かに口を開いた。


「──わかった。なら、三年待ってくれ」

「え?」

「お前は16歳で結婚できるが、俺は18歳までできない。その分の約二年間と、高校卒業後にお前と子供を養えるだけの経済力をつけるために、さらに一年。合計で三年間の猶予をくれ」

「それって、どういう……」

「確かに愛情と経済力も必要だが、お前と姫香の事情を知っている奴の方がいいと思わないか?」

「あっ」


 夏妃がハッとしたように呟く声を聞きながら、私はちょっとした違和感を覚えていた。


 それまで夏妃の暴走に振り回され気味だった琉生の雰囲気が、がらっと変わったような気がしたのだ。何かのスイッチが入っちゃったみたいな、そんな感じ。


 夏妃を止めるにしても「急ぐ必要はないんだ」ってことを伝えて、「とりあえずお付き合いから」って話にもっていけばいいだけのことでしょ?


 なのに、なんでアンタまで夏妃の話に乗っかってんの?


 そもそも私が夏妃の子供として生まれ変わってくる云々って、全部私がでっちあげた話なんだし。夏妃ならともかく、琉生ならそれくらいわかって──


 その瞬間、背中がぞくっとした。


 え、まさか……全部わかって言ってる?


 琉生の発言の真意に気づかない夏妃は、相変わらずとんちんかんな気遣いをみせる。


「でも……松任谷くんまで私の都合に巻き込めないよ。キミにはキミの人生があるんだから。それに親御さんだってきっと納得しないよ。大切に育ててきた息子が、高校卒業後すぐに子持ちになるなんて」

「それも全部、なんとかするから。だから、まずは高校を卒業したら結婚しよう」

「えっ……?」


 さらっとプロポーズした琉生に絶句する。


 え? コイツ、ゆうべは夏妃からの電話一本でジタバタしてたよね? やっぱり変なスイッチ入ってない?


「それからできるだけ早く子供を作ろう」

「……それで、いいの?」

「ああ、ぜひ協力させてくれ」

 

 その言葉で違和感が確信に変わった。


 琉生は夏妃の思い込みをそのまま利用して、自分の思い通りに夏妃を誘導するつもりだ。


「前に俺が言ったこと、覚えてるか?」

「え?」

「お前はただ、姫香の味方でいればいいって言っただろ?」

「あ……倉庫に閉じ込められたときの」

「ああ。お前は姫香を思いっきり甘やかして、可愛がってやればいい。だけど子育てっつーのはそれだけじゃ駄目だろ? 悪いことをした場合に、きちんと叱り役がいねえと」

「そっか、そうだよね……」

「その点、俺ならちゃんとやれる。アイツがどれだけ愛嬌を振りまいてきても、駄目なものは駄目だって言ってやれる」

「そうだね。松任谷くん以上の適任はいないね」

「ああ、信用してくれていい」

「──っ、ありがとう」


 琉生の申し出にただただ感謝している夏妃の言葉を聞きつつ、さっきから悪寒が止まらない。


 私のせいで、夏妃がとんでもない執着男に捕まってしまったかもしれない。


 どうしよう?

 どうすればいい??


 焦り始めた私をよそに、暴走カップルがどんどん盛りあがっていく。


「夏妃」


 琉生がすっと顔を寄せてきて、それに気づいた夏妃が慌てて顔を引く。


「え、なに? ちょっと待って、何するの?」

「キスに決まってるだろ」

「キスっ!? 急になんで、しかもここ外……」


 そうなんだよね。まだ焼肉屋のすぐそばなんだよね。


「大丈夫だ、誰も見てねえ。それに付き合うならキスくらい普通だろ」

「でもこの体は、姫香のもので──」

「その姫香本人が、お前に体を託したんだろ?」

「でも」

「それにキスくらいで動揺してたら子作りなんてできねえぞ」

「それはっ、そうだけど……」


 夏妃の声が裏返って、心臓がとんでもない速さで鼓動している。


「私、経験ないの」


 夏妃が消え入りそうな声で呟く。


「キスとか、したことない……から」


 夏妃を丸め込むと決めてからずっと余裕を見せていた琉生の表情が、一瞬だけ虚を突かれたように崩れた。けれどもすぐに会心の笑みに変わる。


「俺もだ。これが初めてだ」


 たくさんの女子から告白されていたはずなのに、結局誰とも付き合わなかったらしい。すっと手を握ってきた琉生が、再び顔を寄せてくる。


「……震えてるぞ。緊張してんのか?」

「だって……」

「可愛いな」


 琉生のささやきに、夏妃がすぐに反論する。


「可愛いのは、姫香の顔だからっ──」

「外見の話じゃねえ。この手の震えはお前のものだろ? それにこの息遣いも。……全部お前が俺を意識してくれてるっつーっことだろ」

「ひっ……」


 いまにもキスしそうな距離で口説かれて、夏妃が激しくパニックを起こしている。


「愛してる」

「っ──」


 夏妃がギュッと目を閉じたせいで、私の見える範囲も真っ暗になった。けれども夏妃の激しい鼓動や、時々助けを求めるような弱々しい声はしっかり聞こえてくる。


「ちょっと、待って、息できな──」


 結果的にうまくいった……んだよね? もしかしたらちょっと面倒なことになっちゃったのかもしれないけれど……



 まあ、夏妃ならなんとかするでしょ。




(まだ連載途中ですが……)あとがきです。


 ある程度ストーリーを決めて連載を始めたはずなのに、あれやこれやで長くなり、やっと中学生編が終わりました。次話から十年後に飛んで、タイトル回収していきます。


 ですが、いろいろな反省をふまえて、今度は最後まで書ききってから投稿再開しようと思います。


 小説を読もうで『悪役後輩』と検索していただくとすぐに見つかりますので、またお付き合いくださると嬉しいです。

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