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十年前
18/26

18 悪役後輩に転生した人の再テスト①



 この世界にやってきて、そろそろ三か月。


 私が自宅アパートの階段から落ちたのは九月だった。田中さんのおはぎを食べそこねたことは忘れようがない。


 こっちの世界の時間も同じように進んでいるみたいで、今はもう十二月。登下校にはコートやマフラーが欲しくなる季節になった。


 授業終了のチャイムが鳴り、生徒たちが席を立つなか、教壇から数学の先生が声を張りあげる。


「今日返したテストで60点以下の者は、明日の放課後に再テストだ。ほとんど同じ問題を出すから、合格ラインは80点だぞ。合格できなかった者は冬休みに補習が待ってるからな。それが嫌ならしっかり復習して来いよ」


 ええ~、という何人かのブーイングを聞きながら、手の中の解答用紙をじっと見る。


 おかしいな。

 私、本当はハタチなんだけどな。


 でも何度見返しても、23点という赤い数字は変わらない。こんな点数、中学でも高校でも経験がない。


 いや、確かにこの学校のレベルは私が通ってた中学より高いのはわかってるんだよ。だから中学の内容だって侮らずに、毎日きちんと予習復習してた。


 そりゃ、最初はいろいろあって授業受けるのも一苦労だったけど、途中からは琉生が助けてくれたし、今ではもう教科書やノートがなくなることもない。なのになんで?


「姫香、何点?」


 隣の席の男子がひょこっと顔をのぞかせてきて、隠す間もなく見られてしまう。けれどもその男子は私の悲惨な点数を見ても、あまり驚く様子がない。


「いえーい、俺26点。今回も一緒に補習受けような」


 まだ再テストを受ける前なのに、不合格だって確信している言い方に戸惑う。


 え、ひょっとしてみんなこのレベルなの? もしかしたらこの世界では、この点数でもあまり気にすることないのかもって考えていたら、26点男子の反対側からのぞき込んできた琉生が「はあっ? 23点!?」とドン引きしたので、やはり駄目なものは駄目なんだと思う。


「ちょっと見せろよ」

「あっ?」


 問答無用で奪われた23点のテストを、琉生がじっくり確認していく。


「ここは単純な計算ミスだろ。 ……え? こっちも計算ミス?」


 また、お説教だな。

 けれども琉生の表情が次第に困惑に変わっていく。


「なあ、姫香。ほぼ、計算ミスが原因だぞ?」

「──え、うそ?」


 点数がショックすぎて、まだ間違った原因までは確認していなかった。でも琉生からの指摘を受けてあらためて確認してみると本当に計算ミスばかりで、それさえなければ再テストどころか余裕で80点を超えている。いやはや、まさにちりも積もれば山となるだね。


 なんて、納得できるわけがない。

 なんでこんな単純ミスを連発しちゃったんだろう?


 緊張? プレッシャー?

 でも、そんな覚えはない。


 なら気のゆるみ?

 いや、姫香のためにきちんとやった。


「姫香、ちょっと」

「え、何?」


 琉生が私の手を引いて教室を抜け出す。そして校舎の隅の人通りの少ない階段まで連れていかれて、ようやく手を離された。


 校舎には東側と西側にそれぞれ階段があるんだけど、普段皆が利用するのは東側の方で、西側はあまり使われない。私が姫香の体に入ったのもこの階段だった。姫香が琉生に突き落とされる演技をした場所だ。


「夏妃。お前……姫香に合わせようとして、この点数を狙ったのか?」

「まさか。真面目にやったよ」

「真面目にやってこれはおかしいだろ」

「私だってショックだよ」


 そうぼやいて、ふと気づく。『合わせた』ってことは、姫香にとってはこれが普通なの?

 そういえばさっきも26点男子に『()()()()()()()』って言われたような。本人に確認しようと心の中で姫香に呼びかけてみるも、相変わらず反応はない。


「まあ、計算ミスだけが原因なら、落ち着いてやれば再テストは大丈夫だろ」

「うん……」

「なんだよ? 元気ねえな?」

「私、真面目にテスト受けたんだけどなあ……」


 納得いかないけれど、ここでごちゃごちゃ言っても仕方ない。とりあえず明日の再テストは細心の注意を払って挑まなきゃなって考えていると、琉生がぼそりと呟く。


「……じゃあ、冬休みにどこか行くか?」

「え?」

「補習を免れたら、そのご褒美っつーことで」

「ご褒美? 松任谷くんから?」


 そこまで心配させてしまったのかと、自分の駄目さ加減にため息をつく。すると琉生がムッとしたように眉を寄せる。


「何か不満なのかよ?」

「だって、六つも年下の子にご褒美貰わなきゃ頑張れないって、ダメダメ人間じゃん」


 言ってすぐにしまったって気づく。琉生は年下扱いを嫌がるし、そうでなくとも今の言い方は良くなかった。自分で思っていた以上に精神的ダメージが大きかったみたいだ。


「ごめん、今のは──」

「『かまど炊きごはん食べ放題』」

「──え?」


 てっきり機嫌を損ねちゃったと思ったのに、琉生の口からなんとも魅力的なワードが飛び出してきて驚く。


「……今、なんて言った?」

「野球部で打ち上げによく使う焼き肉の店なんだけどよ。ランチ時間限定で、学生は炊き立てのかまど飯が食い放題なんだよ」


 なにそれ最高。


 すでに口の中が唾液でいっぱいの私に、琉生が二ッと笑みを見せてくる。


「再テスト合格のご褒美に連れて行ってほしくねえか?」

「行きたい!」

「なら、明日頑張れ」

「わかった! 超頑張る!」


 テストの結果で落ち込んでいたけれど完全復活だ。元気になったせいでおなかか空いて、まだ三時間目が終わったところなのに私のおなかがぐうっと鳴る。


「……まだ昼じゃねえぞ」

「わかってるよ」


 からかわれても全然気にならない。教室に戻る間にも鼻歌が出ちゃうし、脚が勝手にスキップしちゃう。後ろを歩く琉生から「はしゃぎすぎだ」ってツッコまれたけど、楽しみなんだからしょうがない。

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