7 後日譚 教科書を破いているのを見たと偽証した令嬢のその後
「まだあの子は部屋から出てこないのか」
男爵が問いかけると
「ええ、一日中ボーっとしていますわ」
夫人が困った顔で答えた
「そうか」
男爵はそう言うと朝食を食べるのを再開した
男爵は内心では仕方がないと思っていた
なにせ頬に傷があるのだ
急いで治療したものの完全に消すことは難しいとの医者の言であった
まあ化粧すれば隠れるのだから大丈夫だろう
そう思うのは男故らしい
なにせ娘は部屋から出てこないのだ
男が思っているよりも数倍は深刻なのだろう
・・・実際妻は毎日長い時間をかけて化粧をしているのだし?
しかし伯爵家ももう少しまともに子育てをして欲しかった
それが本音である
親同士は寄り親、寄り子の関係である
寄り子は寄り親の言うことを聞かなければならない
貴族社会での常識である
それが子供にも通用すると思った伯爵家子息は暴走した
寄り子の家の娘、つまり私の娘を部下、いや下僕として扱ったのだ
何をしたかというと婚約者の令嬢との婚約を破棄するために冤罪を擦り付ける際の証人に仕立て上げたのだ
それも無理矢理、である
「貴様の家がどうなっても良いのか?」
未来の伯爵家当主で、未来の寄り親の言う事を聞く選択肢しかなかった
上手く立ち回っていてくれたのなら我が家は問題がなかっただろう
しかし、愚かなクソガ ゲフン、ゲフン、子息が自爆したのだ
その上、娘を守るどころか逆に切り捨てる始末
おかげで娘は心と体に傷を負い部屋から出てこない
食べるものも食べず、飲むものも飲まず弱っていく一方だった
被害者なのに加害者として噂されいいように嗤われている現状を娘には教えていない
だが黙っていても感じているのだろう
一向によくなる気配がない
どうしたものか
男爵は朝食を食べながら出口のない答えを考え続けた




