【普通に考えばわかることです。】考えれば
※直接的ではないですが薬物摂取の話があります。
1人の令嬢がカンテラを持ち、王城にある地下牢獄の階段を降りていた。
コツン、コツンと暗闇の中、彼女の履いているヒールの音だけが響く。
(本来シナリオ通りなら、私が此処に入る予定だったのにね…あまりにも逸れたからか不思議な感じ。)
私こと『グィネヴィア・ツヴァイ』はこの乙女ゲームの悪役令嬢であり、前世の記憶がある。ちなみに前世は好きな絵師さんが担当したゲームを片っ端から買っては遊ぶ社会人だ。
このゲームもそんな理由で買って遊んでいた。
彼女は主人公が王子ルートに入ると、自分の王妃候補という立場を失わない為に様々な手段を使ってヒロインに嫌がらせをして排除しようとするが、シナリオ最後では婚約破棄され牢に入れられ、家族にも捨てられて処刑されるというシナリオだった。
私が前世を思い出した、断罪イベントという名の卒業パーティーの時には既にシナリオから大幅にズレが生じていた。
というのも、ヒロインに嫌がらせをしていたとされる記憶が一切なく、学園では勉学と王妃教育に務めていた。
会場に入り、婚約者である王子から婚約破棄を告げられるはずが衛兵がヒロインを取り押さえるという異様な光景が目に入った。
ヒロインは何故こうなったのか訳がわからないという状態で、私と目が合っては「捕まえるのはあっちの悪役令嬢でしょ!?」と喚き叫ぶも布で口を押さえられ、そのまま退場させられた。
(悪役令嬢と言ってたってことは…。彼女も私と同じ前世の記憶があるのかしら?)
卒業パーティーはヒロイン退場と攻略対象が不在で静かに終えた。
卒業パーティーの騒動から数日後、私と父が陛下から呼び出された。
「王国の太陽、ご挨拶申し上げます。」
謁見の間にて父と共に陛下に挨拶をし、跪く。
チラリと玉座に座る陛下と隣にいる宰相の顔色を見ると、あの騒動の鎮静化に苦労したのか疲れ切っていた。
「其方たちに話がある…我が息子との婚約だが…解消することになった。」
額に手を当て、苦渋の決断をしたという表情だ。
「陛下…失礼ながら解消の理由をお聞かせ願えないでしょうか?」
私は内心ではどこかで婚約破棄されることは納得してたが、父は納得していないようだった。
(そうよね…王妃候補として教育するのに色々父も苦労してたしね…。)
「我が息子は…いや王族に関係する家系の息子達はどうやら先日捕えた令嬢から数日にわたって国で禁止されている麻薬を盛られていたということが発覚した。」
その後は陛下と宰相から詳細が伝えられた。
殿下、宰相の息子、騎士団長の息子、魔術師の息子、そして公爵家の息子は件の令嬢が編入した日から薬物を盛られ、騒動の当日に禁断症状を起こしパーティーの控え室にて人とは思えない暴走状態を起こしていたことで判明した。
その薬物は、与えてくれる者に対して愛情が湧く状態になるが、一度でも体内に入ると依存性が非常に高く摂取しなければ禁断症状に陥る。その症状とは他害行為、破壊衝動、幻覚、幻聴、自傷行為等で最終的には死亡するといったものだった。彼らは多量に摂取してしまい更生は不可能状態となり、苦しまないように永眠させられた。
(後継ぎとされた人たちが亡くなったのだもの…これは反逆罪確定よね…。)
「ちなみにこちらが薬物が含まれていたとされる物です。現在、令嬢がどのようなルートで入手したのかは調査中です。」
宰相が小袋に入った物を見せてくれた。
(あれは…。)
ピンク色の星型のクッキー。見覚えがあった。
(好感度を爆上げする入手困難なチートアイテムじゃない。)
ゲームでは好感度を上げるアイテムが存在するが、中でも星型のクッキーは通常のアイテムよりも効果が10倍あるとされる。
入手する方法がゲームの確率任せな為中々手に入らないと言われていたが、とあるRTA実況者が裏技で無限入手する方法を見つけてしまい最速でクリアしてしまうという問題が一時期あったのを覚えている。
(あれを沢山食べさせてたってことは…ヒロインは裏技を知ってる可能性があるわね…。)
そして今後の話し合いをした後、私達は謁見の間を退室した。
父にはまだやることがあると話し、先に帰らせた。
そして、現在に至る。地下牢獄の門番に金を渡し、ヒロインが投獄されている場所に向かった。
罪人は直ぐに処刑されるか獄死する為、静寂だ。
奥の牢にはこちらに背を向けて項垂れている少女がいた。学園では可愛らしい姿だったが、今では髪は乱れ、路地裏にいそうな貧民と同じ見窄らしい格好だった。
「リア・モルガン。」
声をかけると、こちらを振り向いた。生気のない目だったが私の姿を見た途端、目には殺意が宿った。
「なんで…なんで…アンタじゃなくて私が牢獄に入らないといけないのよ…!!」
興奮した猛獣のようにガンガンと鉄柵を揺らす。
「そりゃあそうでしょ…。薬物の入ったマジカルクッキーを5人に多量摂取させた上に人間として再起不能にさせたんだから」
「…は?何言ってるの?あれは友好度上げるチートアイテムよ。薬物な訳ないじゃない!」
「それはゲーム内の話でしょ?この世界ではあのクッキーは麻薬に似た成分が入った危険な物だったのよ。これを見なさい。」
そう言って、私は牢に向かう前に医者から拝借した、殿下達の摂取後の禁断症状の映像を記録した道具を見せた。
そこに映る彼らは本来の美男子ではなく廃人と成り果てていた。「アレをくれぇ!!」と喚き叫び、暴れ、自傷行為をする者もいた。
「…な、何よこれ…。えっ?おかしいでしょ?だって…あれは…」
相当衝撃的な映像だったのか、顔は引き攣り固まっていた。
「ゲームの世界感覚や知識で手を出した結果よ。彼らは電子で動くものではなく、れっきとした人間よ。…そもそもこの世界がなんでゲームの世界と同じってなる訳?どこかしらズレがあることくらい『普通』に考えればわかることじゃないの?」
前世で読んでいた乙女ゲームの転生作品でも必ず原作とは違うということがあり、100%一致するなんてものは無いに等しい。そういう前提知識があればわかるはずだと思うのだがどんだけ頭が幸せなヒロインだと思う。
「いずれにせよ反逆罪で処刑されるのは確定だけどね。とりあえず、あのクッキーは売店で入手した…ということよね?」
言葉のナイフが刺さり放心状態になった彼女の首が微かに縦に動く。
肯定ということだ。
(やっぱりね…。陛下に報告しないと)
「原作なら貴女が私の罪を許すために此処に来るけど…私はそういうのしないから。勝手に破滅に向かったんだから自業自得よ、それだけ。」
それだけ吐き捨て、私は地下牢を出た。
舞台となる学園には売店があり、そこでは日替わりでアイテムを買うことができる。そこで裏技を使用してクッキーを入手する方法はかなり簡単だが、意外と見落とされやすい内容だった。
売店では1日1回合言葉を入れることでレアアイテムを入手できる。入力後は『合言葉』のコマンドは消えるのだが、そこで下の矢印ボタンを10回押すと表示には無いが『合言葉』のコマンドがある。あとはそこで入力することで無限にレアアイテムを入手できる。
余談だが合言葉の一覧にクッキーの『合言葉』は設定されていないと表向きではアナウンスされている。しかしこの裏技を見つけたRTA実況者は元々乙女ゲームの製作会社のプログラマーらしく、そのことを知っているということはある程度察しがつくだろう。
陛下に報告した後、直ぐに動き出し売店の職員は確保された。彼の正体は薬物を扱う組織の下っ端だった上に上からは「軽いもの」とされここまで大事になるとは思わなかったらしいとのこと。
勿論彼も尋問された後に処刑されるだろうし、組織への取り締まりも近々行われるとのこと。
それから数年後。私は実家の公爵家で悠々自適ライフではなく、王妃となっていた。
何故このようなことになったのかという経緯は、王室では王の血縁者を血眼で探してたらしく遠縁ではあるものの辺境伯爵家に所属する騎士団長を発見。年齢は20代後半と離れてはいるが血が絶えることを忌避し招き入れた。本人も拒否すればいいものを困ってる人を放って置けないお人好しだった。
流石に当時の私は異議を申し立てたが王からは
「当時は私の息子との婚約を解消と言ったが、王室との婚約解消とは言っていない。」
と笑顔で返された。
(やられた…。)
ただその一言だった。
その後彼とは夫婦になり王妃の仕事をしつつ、彼のサポートに回った。戦術関係の知識しかない為自信はないと言ってはいたが飲み込みが早く数ヶ月で王としてふさわしい姿になっていた。
まとめ(メモの内容コピペ)
※下書き段階の内容です。
悪役令嬢
前世は日本人。言葉の棘が強く、よく人を傷つける(自覚なし)
ヒロイン
転生者で乙女ゲームのこの世界を熟知してると鼻を高くしている。
攻略者
5人。全て被害者。
好感度アップアイテム
願い星のクッキー
攻略者の好感度を物凄く上げる(通常が5なら80上げられる。)
ただし入手が困難な上1人1個しか使えない
※ゲームではアイテムが無限に手に入るバグが見つかり、最短攻略で終わってしまう。
主人公が転生した世界ではこのクッキーは国が禁止する麻薬を含んだ危険アイテムとされており、一度でも口にすると与えられた者のいうことを聞くが、1度でも与えないと暴れ出し、凶暴化する。なお更正は不可能とされている