表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

プロット協力作品

悲恋~男と女のテネシーワルツ~回想編~

  『あたしの愛して止まないあの人は、昔カタギの渡世人だからかな?


 あたしを愛してるとは言ってくれたけど……あたしの身体には…指一本触れてこなかったよね……あちらの暮らしは如何ですか?康介さん……』


 あたしが独り、そうつぶやいたのは、彼、平岩康介との馴れ初めの場所。

 そう、平岩一家初代の彼のシマ内にある、一軒のカラオケバーだった。


「姐さん…やはりここにおいででしたか……」


 独り酒を呑み、あの人が好きで褒めてくれた歌、テネシーワルツを独り歌うあたしに、一人の男が、そう声をかけてきた。


「やだよぉ信さん…その呼び方ぁもうよしとくれよぉ……天国に旅立ったあの人も…もちろんあたしも…渡世からぁ引退したんだからさぁ……」


 あたしはそう言うと、隣の席に座る彼、現、平岩一家二代目の安西信次さんに、自分の吸うショートピースを進め、あの人の形見のガスライターで火をつけるのだった。


「……そうでしたね…申し訳ねぇ…つい昔の癖が出ちまって……俺等ぁ平岩一家も…もうヤクザじゃねぇお嬢の元からの生業だったぁ地下アイドルのマネージメント会社だぁ……

 こいつぁ不器用で真っ直ぐだった先代の遺言なんです…お嬢がウチのオヤジと知り合ってウチに来てくれるなんてなった時ぁそりゃもう喜んじまって…想像できますか?お嬢……あの厳めし頑固ヅラぶら下げたオヤジがですよぉそりゃもう少年そのものでした……」



 最初こそ、嬉しそうにあの人の生前を語ってくれていた信次さんだっけど、彼の声音はだんだん弱くなり、最後は泣きながらロックグラスのバーボンを一気に胃の中へと流し込んでいた。


「……信さん…ありがとう……あの人の想いも信さんの想いも…あたしの胸にちゃんと届いてるから…もう泣かないで…そんな姿の信さん見たら…あの人に殴られちゃうわよ……」


 あたしの隣で彼が、声を圧し殺して泣くものだから、あたしもつられて泣きそうになった。


「…信さん……明日のスケジュールは全てキャンセルよ!今夜は明け方まで呑みたおすわよ!」


あたしはそう言うと、隣で未だ鼻をグスグスいわせている彼の頭をさして膨らみの無い胸にギュッと抱きしめてやった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  大事な人のことを同じように語れる相手がいるということは、とても幸せなことですよね。  失ってしまったからこそ、きっと余計に。
[一言] もうだめ こんな風に書いていただくと ほんと、泣けてきます。 素敵な作品をありがとうございます<m(__)m>
[良い点] 昔を懐かしんで思いを馳せる女性と、(イメージ的には)少し年下の、義理堅い男の一場面。 そんな雰囲気のお話だな、と。 どうしても考えるのは、信次に義理以外の感情があるのか。女性に対して。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ