新王と市民軍 王都灰燼 4
「では兵力回復の具体的な策は?」
第二王子改め、新王アルス2世は上目遣いに、近衛隊長を見る。
その目は怯え切った小動物のようだ。
国王の号は、先々代アルス1世から継承し。
強い王国の建設を宣言するためのパフォーマンスである。
アルス2世は、
『荷が勝ちすぎて怖い』と呟いている。
まあ、そういうところがあった。
兄の陰に隠れて、好きな農業でもできれば我が人生、一片の悔いもなし。
なんて微笑みながら、家督争いから身を引いける人だった。
まさか板挟みになってた上下がいっぺんになくなって、その渦中に放り込まれるとは思っても似なかったようで。可哀そうだけども、彼の運命はそんなものだったわけだ。
さて、胃からキリキリと鈍い痛みを感じつつ、
性格に合わない人物像を背負わされたアルス2世は、口の中のごろっとしたモノを舌で転がして。
漠然と、気が付く。
あれ?
これ、何?????
ざーーーーって、砂嵐みたいなのを頭の向こう側で聴いてる感じがして恐ろしくなった。
ごりごりする。
あ、二つになった。
もっと砂嵐が聞こえてきた。
口の中は冷たい何かで怖くなる。
「――という事で...聞いてますか陛下?!」
王の手となった近衛隊長が問う。
「あ、ああ」
顔には焦りが見えるし。
口の中はしょっぱいし。
あああ...
考えたくない、考えたくない、違う、違う、違うと誰か言って!!!
それ...奥歯ですよ?
聞こえてないと思うけど、あたしが教えてあげる。
舌先が届く一番奥の方へ必死に伸ばして...
大きなクレーターじゃなくて、凹凸の激しい痕跡を感じる。
ふり絞った一握りの勇気で...
掌に吐き出す塊へ
砕けた奥の歯、ふたつ。
根元から折れてた。
これで大出血にはなってないけど。
シャレになってない。
「歯ぎしりで?」
「いや、砕けてますからなあ」
不摂生ですかね...とか。
いやいや。
◆
コンバートル王国の国庫は、略奪に会う前に禁軍が確保した。
というか寸でで間に合ったと言っていい。
この争奪戦に参加した市民軍は2000人。
武器は、鎌や、鋤に鍬などの農作業で使うもので、近衛騎士団が率いる職業軍人の前では単なる噛ませ犬でしかなかった。が、禁軍の中から略奪する不貞な兵士が出たことは、後に報告されている。
でだ。
あたしたちの状況なんだけど。
領事館から二手に分かれた、ヒルダさん率いる海兵隊は王国の(解放されたい)市民の避難誘導を買って出て、女神正教会・神殿騎士と聖堂騎士団で禁軍とひと悶着起こしちゃったわけで。
つうか、さ。
他人の話を聞かないんだ、あいつら。
「領民保護の建前ってやつだよ。市民の生命の危機、彼らの私財とか本来ならば優先して守るべきとこなんだけど...それは国に余裕がある時だけ。平常化した時に街の復興には莫大な資金が必要になるから、領民が勝手に町や土地をふらふら移動されることを嫌うんだよ」
いや。
ヒルダさんの解説、ごもっともだけど。
わかるけど...これと...
「でも、それが現実なんだ。彼らの言い分がすべて正統なのだとしたら、私たちの戦力も...ぶっちゃければ、ココ(王国の敷地内で展開する限り)無償で手を貸すのが普通ではないかって難癖すらつけてくるだろう」
そう、胸板を人差し指で突くようなら、無能な国主だとレッテルが張れるっていう。




