新王と市民軍 王都灰燼 1
ドーセット帝国だけの利益ではなく、他の大国の思惑も勘案すると...。
「帝国にとっては、交易都市カブルの周辺海域が脅かされることは、心穏やかなことじゃない。で、先にも挙がったように策定されたのが、コンバートル王国の騒乱という献策で。具体的には、ストレスをかの国に与えて、国力を国外へ向けさせぬようにすることだった」
仮に、皇帝が勅令を発し。
策定通りに実行されたとしても、今現在のような、国中で大混乱という状況には陥らなかった。
これは帝国でさえも、想定外の事態である。
ま、もっともだけど。
未払いに終わるだろうと予測されてた賠償金――国家間交渉では、賠償金の額と同じ貸付金というのが裏で動いてて、これを元手に灌漑用水の小ダム建築や、農政改革に回してたという噂が聞こえてくる。
で、実際に王国が混乱すると...。
この貸付金も、返済されなくなるので――帝国には何のメリットもないことになる。
「皇帝さまのやりようじゃないから、このあたりは皇太子さまらしい活用法だと思う。それで献策を蹴ったんだと考えると...納得はできるんだけどね。ただ、そうなるとますます...この流れた献策がどうして息を吹き返したかが気になるとこ。帝国に睨まれるだろうリスクを背負ってまで、他国がコンバートルの崩壊に手出しするとは思えないし」
煮え切った感じのヒルダ。
依頼の遂行に対して知恵を尽くすのが常の彼女に、政治は重いテーマだった。
あたしも論外なんだけど。
「じゃ、さあ! こういう状況ってどんなトコが儲かるの?」
そう。
もう、ここら辺は損得勘定しか優先度が無さそう。
だって同一の国の市民だって、町中を闊歩するのが危険なんだから。
誰に徳があって、誰が損をしているかしか考えられない。
「うん......そうだなあ。まずは、冒険者」
ギルドにて身分が保証されている、登録された冒険者は兵隊以外でなら“何でも屋”としてとにかく何でも仕事を熟してくれる頼もしき隣人であろう。日々の用心棒から、邸宅の警備、或いは地域の治安回復とか、あとは買い物までしてくれる。
ただし、こんなきな臭い状況だから危険手当が普段よりも数倍高く設定されるだろう。
内戦以前のような水準ではない。
「ほう...」
ミロムさんの目が光りましたなあ。
「な、なによ??!」
「光りましたなあ」
いや、何も詮索してませんよ。
ただ、光ったなあって口に出しただけです。
◇
「盗賊ギルドの連中も、火事場泥棒に大忙しだろうねえ」
ヒルダの奥歯からギリリって音が鳴る。
こういう状況にしたくなかった理由の一つだ。
混乱が起こると、
押し込み強盗が増える。
戦争なんだから、路上で死のうと、屋内で死のうと何の不都合があるだろうか――っていうサイコパスな連中が現れる。いやあ、盗賊ギルドに登録している連中が皆、刃傷沙汰に狂喜乱舞するわけじゃあないけども、でも...多い。
「普段ならば、盗品を元の主人に買い取らせるような商売で、盗賊とギルドの両方が儲かってるんだけど、こんな状況になると買い取り手がいないため二束三文の質流れなんてのはザラに出る。だから、手当たり次第に豪商が狙われていくんだわ」
ふむふむ。
流石、暗殺者...アウトローな事情に詳しいようで。




