戴冠式 内乱 16
「ヒルダさんは何か別の仕事がありようにも見受けられるけど、この事態に陥った時点で本国から帰還命令が下ると思いますよ?」
と、告げるのは後輩。
お、こいつ...なんか知ってるな。
ヒルダの視線が床へ。
「...確かに。コンバートル王国は内戦へと堕ちた。止めるはずだったのに、その任務を根本的に見誤って結局、かなり深刻な事態にしてしまった...これは私の不徳が招いたものだ」
ここからの挽回は、たぶん無い。
秩序回復のために新王体制側に与するというのも...考えられるひとつの手段だろう。
が、どうにも長引きそうな予感はある。
いや、これは諸刃の剣だ。
体制派とるであろう選択肢が危う過ぎるからだ。
帝国は今、人類救済の大事業に全力を傾けている。
そこで...コンバートル王国の存続ということの為に、注いでる力を分化させるのも...父、皇帝に対して、娘としてやっぱりモヤモヤするのだろう。すっごい苦虫でも食っちまったような顔してる。
ヒルダ、渋いのかその虫?
「食っとらんわ!!」
あ、そ。
いや、そんなに怒らんでも。
「いや、なんか悪い。...っ唐突に、その脳裏にセルコットがずうずうしく覗き込んで弄ってくるイメージが湧いたんだ。こう、人懐っこそうな雰囲気で、だな。私のTKBを蛇イチゴだとか言って、摘むんだとか宣いながら...」
すっごい妄想。
いや、念思的には確かに似たような...あれ?
あたしは、こめかみに人差し指を当てて――
「は?」
「ん?」
「え?」
「お!」
四人の目が交差する。
いや、三人は確実にあたしのポージングを見てた。
ああ、そういうこと。
で、納得する三人。
「こんな緊急事態になんちゅう迷惑なイメージ流すんですか!!! ヒルダさんは、ノーマルなんだから、姐さんみたいな不健全者じゃないんですよ」
後輩が投げたブーメランは、ミロムに刺さった。
胸を押さえて、彼女は膝から崩れ落ちる。
次に後輩に刺さった。
彼女も変な声を挙げて、失意。
「何やってんだよ、もう...この子も馬鹿だなあ」
ねえ、ヒルダって振り返るあたしの前に、生存者はいない。
え、どういうこと?!
◆
魔法詠唱者協会でも、退去命令が下ってた。
ドーセット帝国から陸軍特殊部隊の10名が派遣されている。
「研究で、どうしても必要だという物だけにしてください。王都の騒乱が国中に波及するまでには未だ、時間はあるでしょうから。こちらの学術院から先に国外へ脱出させます」
国交がある地域は限られるので、ドーセット帝国としては一時的と言わず、半恒久的にもこの大陸から離れることも視野に入れている。ただし、各自にコネがあれば、最寄りの中立国へ護衛することも確約してくれた。
協会としては、聖国に設立させた支部へ行くことを強く望んだという。
「宗主もいるんですし、一旦、帝国本土に戻っても?」
大鎧のガムストン・レイが帝国兵を指す。
マジックボックスに放り込まれる、書類の山――どうもグラビア写真集も放り込まれたような。
「今、戻れば...掴みかけた“尻尾”を完全に見失うことになるだろう」
ガムストンさんは、眉間に皺を刻み難しそうに...
「それですよ、それ...掴みかけたといっても、その尻尾...ネズミか獅子か分からないんでしょう? 仮に未だこっちの手に負えるものならば良いでしょうけど。今回のように分かってても、どう使われるかでこんな事態にさせられるんじゃあ、割に会わないって話です」
検視によって得られた情報に、秘密結社のも含まれる。
ただし、老翁も秘密結社が持ち掛けた計画のごく一部しか知らされていなかった...ただの歯車だと。




