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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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戴冠式 内乱 14

 貴族院からのざわつき。

 と、同時に市民院からも似た雰囲気の“風”がふく。


 本来ならば、守られるべき“羊の群”れなので、伯爵が提唱する“()()()”という立場の貴族ものたちに寄せる、安心感というか信頼は麻薬のような感覚がある。

 船頭を求めるのも集団心理と言えそうだが...。

 伯爵の手を握ろうとするものが、その場にはいなかった。


 市民を含めて“却下”の大合唱が、答えとなる。


 議題は単純明快に...

 納税しない貴族に爵位は不要――というもの。

 現状、その立場の者たちから反発は予想できたけども、市民からも挙がるとは思ってもみなかった。

 これが陰謀だと言われても、伯爵は信じただろう。




 とうとう、追われるように議事堂を後にしてた。

 端から見れば、逃げ出したようにも見える。


 彼が画策した演説たたかいの場から、だ。

「...っあの阿呆どもが! この国の富と力が今、禄に納税もしない似非えせ貴族たちの太い腹の中に...滑り落ちていることが、なぜ分からんというのだ!!!!」

 理解に苦しむとも、添えて何度も議事堂を振り返ってた。

 伯爵に付いた近衛兵数名とともに、馬車へと滑り込む中――馭者ほどの高い位置から矢が降る。

 彼の左肩と首の間から突き刺さり、背中へ向けて右腰のあたりから飛び出していった。

 矢はそのまま、石畳に突き刺さった。


 獲物は石弓で。

 撃ち放った馭者はその場で自害した。

 証拠隠滅も徹底したプロの仕事である。



 一方、伯爵の方はひどい死に方だ。

 というか、痛い死に方に言い換えよう。

 首から入った矢が内臓を傷つけながら進み、体外へ排出されたわけだけども。

 入るよりも出たほうの出血が異常だ。

 腰の裏の方は滲む程度で大きな出血に至らないんだけど、体の中はぶよぶよと水風船みたいに膨れ上がってた。

「い、いき、いき、...が...」

 大の大人が涙目になる表情。

 口をパクパク開け閉めしてるけど、呼吸しているようには見えない。

 そうこうしているうちに...みるみる青くなる。

「閣下!!」


「治癒士をー!!!」

 って声も飛び交ったけど。

 議事堂前の大惨事はこれで済むことは無かった。

 聞きつけた市民院の議員たちにも、凶弾が飛ぶ。


 羽織の下から石弓を担いだ市民が、議事堂へ向けて押し寄せる。

 そして、彼らは声を挙げて念仏にように唱えるのだ――『市民の手に国を!!』と。

 秘密結社の潜伏者たちによる、最後の仕事であるようだ。



 領事館を出ようとしてた、あたしたちの下にも報せは届く。

 ミロムとあたしはまたもや、ヒルダの友人たちによって船出を邪魔されることに。

「いや、邪魔はしないけど...事態を把握するために、今は外に出ないことが賢明だと思ってね」

 止めはしないとも追加して言われた。

 えっと、そこまで言うんだったら...

 ミロムへ潤む瞳を向けて。

「自分でいいなさいよ、ズルイ子だなあ」


「えっと、ヒルダ。しばらくまた...厄介に」

 ミロムとの問答中に、だ。

 正門から珍客が現れる。

「女神正教会の者です」

 帝国と教会の関係性は深い。

 そこから使者として来るとしたら...

「やっと見つけた、姐さん!!」

 やっぱり後輩だ。

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