港街の悪い噂 6
恥ずかしくて耳をふさぎたいくらい喘いでた。
顔を背けても、天蓋の鏡があたしを映す。
何をされてるかも分かるほどのクォリティー。
身を捩ると、後輩の手がTKBをきつく摘まんでくる。
ま、あたしには抵抗なんて自由もない。
ああ、何も考えたくない。
今はあの行為を忘れたい。
「もう、激しすぎですよね! やっぱ、天蓋の鏡効果は絶大です」
感想をありがとう。
おかげでこっちは、水気もなくなったわ。
ちっとは手加減ってのを...
「手加減なんて出来る訳ないじゃないですか!! 先輩のジュースですよ“舌”の感覚がなくなるまで、味合わないなんて勿体ないこと私には出来ません!」
力いっぱいの告白。
その行為でヒリヒリする、あたしのは...どうしたらいいん?
「えっと、じゃ、もう一回」
えー!!!!?
◆◇◆◇◆◇
あたしと伽に耽った後は、
彼女本来の仕事へと戻る。
紅の修道女は、教会でも諜報員として活動する“死の天使”だ。
炎の柱出身の魔法使いたちは、多くの職業を複数習得させられた。
魔法使いだから体力が、筋力がないという常識を覆す。
魔法使いだから近接戦、格闘戦が出来ないという常識も覆す。
魔法使いだから~というあらゆる常識に捕らわれない、タイプの育成にも力を入れていた。
その一つのタイプが、あたしであり、彼女なのだ。
ま、もっとも。
規格外が大量に発生することは無かった。
逸材と呼べるに値する子供たちでも、年に2、3人。
ものになるまでの投資はプログラム上、大赤字だ。
それでも、あの学校は今でもあたしを作ってるんだろうさ。
「姐さん?」
部屋に戻ってきた修道女に声を掛けたのは、宿屋の番頭。
この街のコソ泥みたいなギャングを統括している者でもある。
「一時凌ぎだけど、うちの姐さんの体液はポーションよりも純度が高くてね...失態の進行を遅らせてくれる。吸血とか、或いは本気でまぐ合えば治療効果も高まるだろうけども」
と、奇怪な形に変化している左腕に視線を落とす。
彼女自身、調査中に大きなミスを犯してた。
初めから助けを請えば...
「なら、治して貰えるなら」
「いや、部分変化って事は...連中、解毒薬を持っている。そこで教会が女神の加護や奇跡なんてのを起して見せて、信仰を煽るとこまで見抜いておいて、高く売り抜こうって話なんだろう。それじゃあ、意図を汲んでやらないと、な」
そのために腕は治せない。
解毒薬もなく治せる術がある事も、知られてはならないという。
あたしを切り札に使うのはいい。
だけど...
「そんな無茶な!」
無茶を承知で――って時は確かにあるが。
「姐さんの柔肌に...牙を、掛けたくないんだよな」
が、本音だ。
吸血する者たちはある。
生きるために吸血するのではなく、行為的なものだったり、儀式的なものとか。
後輩は、4分の1にノスフェラトゥの血脈が混ざる混血児。
丸い耳のエルフ族。
どっから見ても人間そのものなので、怖がられることは稀だ。
横長にぴんと張ったエルフですよ~って、あたしとの差異は大きい。
「惚気はいいです」
番頭さんは無表情で切り捨てたが、
後輩は、壁に穴でも開くんじゃないかって勢いで殴ってた。
他人にとっちゃあ、あたしと後輩の情事は、どうでもいい話だろうに。
壁に当たるな、壁にごめんなさい、しときなさい!
「で、先方ですが」
「教会に金を運び込んできた、領主の従者がソレだったようだね?」
修道女とは別の部屋で似た取引が行われてた。
毒はその時に盛られた。
「街の冒険者ギルドに...そうだな、ボディガードの依頼をよろしく」