戴冠式 内乱 11
「藩主閣下は、息災ですか?」
彼ら三人は、秘密結社アメジストからの客人であり。
今回の騒動での成果を報告する、立場の者たちである。
「そんな堅苦しい作法は、どこで身に着けたのかなあ」
ここからが探り合い。
馬車から降りた時は、まあ、親しい人を迎え入れるような目線で。
降りたら降りたで、背筋に脂汗が滲むほどの重圧が三人に向けられた。
そして改めて――
ここは敵地であると実感する。
「ここに渡る前ですか、ねえ」
他の大陸でも、仕事は変わらない。
クリシュナムと似たように、他人の屋敷の中へ転がり込んでかき回し壊してきた。
まあ、あまりいい趣味とは言えないが。
「ほう」
察したものでもあったのだろうか。
隊長が三人を応接室へ導く。
「閣下が来られるまで、ここにて寛いでいてくれ」
残して退出する。
調度品は豪華の極み。
入ってきた戸口を挟むでもするように、壁に掛けられた絵画も見事な連作のよう。
大貴族となると、掛けられた絵一枚でも大層な額になるだろう。
◇
しばらくすると。
三人が入ってきた同じ扉から、藩主が登場する。
どこかに隠し通路でもあって...
例えば三人が囲む卓上が、唐突にゴトゴト揺れだしでもして――そんな珍妙なギミックに囚われているさなかに背後へ回り込むとか。まあ、そういう流れも期待しなかったとは言えない。
燕尾服の少女は、そんな荒唐無稽な話をしてたとこだ。
和服の男が『ないない』とあしらった当たりで...
普通に登場したものだから。
少年も一緒に三人のため息が非常に重かった。
「おやおや、なんか期待を裏切ってしまったみたいだなあ、これは」
苦笑しているけど。
そんなに軽くもないような。
「近衛隊長は、その場に待機。ああ、それにいちいち名乗りは...必要ないから」
藩主さまのおな~りぃ~とでも言いたかった。
しゅんと、肩を落とす男と。
不気味に微笑む男は対照的だ。
ジブリィ藩は、聖国の玄関であると同時に門番でもあり、またひとつの国家ともいえる。
ラグナル聖国から自治権を得ているし、領地としてみる藩は小さな国土のわりに、高い生産性を持っていた。
この国力がすべてラグナルを守る“核”になる。
「さてさて、どんな結果に落ち着いたのかな?」
◆
帝国領事館の武器庫に移動した、あたしたち。
ようやく重い腰を上げようというところに...再び、そう、再び向いた。
領事館のアルバイトを断られたのを愚痴って、引き籠るようにヒルダの部屋に戻ったあたしたちだけど。
そのヒルダに手でも引かれるように...
今、武器庫の中にある。
「さて、セルコットの武器は貧弱だから」
ああ~
バカにしたあ!
「バカにもするわ。卒業試験のあとから騙し騙し使ってた剣でしょ!」
ミロムに取り上げられる、あたしの剣。
一度は物持ちがいいだの、懐かしいだのと褒めてくれたのに。
「褒めてもいないよ...呆れてたの」
え?
「リーズ王国式抜刀術を極められる剣客は、師匠曰く然程多くはない。数千人の剣客あるいは、戦士を代表するような意味合いも込めて、卒業した剣士・戦士には資格者としての証拠として“ブロードソード”を贈る習慣になったそうだよ」
ほう。
「初耳だって顔してるよ、このバカ?!」
バカ言うな、バカって。
自覚はあるんだから。




