戴冠式 内乱 10
第三王子の祖父はなんか色々経由して、
ラグナル聖国辺境公・藩主ジャーン・ジャシーィへとつながるようだ。
老翁もかつては、ジブリィで生まれ育った人であるから、方向的に――黒幕は、秘密結社なんだけど...こう、かの結社の宗主と藩主が結託しているような、雰囲気もそこにあった。
冷静に見れば、ね。
さて、そうなると...もう一つ。
「国王を偽物として送り込むとして、それは...そもそも可能なの?」
あたしの問いに、ヒルダは否定した。
王族の神聖性が疑われてしまう。
どんなに王国史が短かろうとも、血統主義ってのは異物を好まない。
初代国王は、純血性の維持のために、複数の公爵家を用意させる。
後に直系が途絶えかけた際、その公爵家から養子縁組して血を継がせるためだが...そうした創始者の血にはまま、伝説が付いて回るものだ。魔法でも胡麻化しきれようもない神聖的な紋章のエピソード。
「対抗魔法で、幻覚や幻視、幻聴などの周囲に与える効果の打消しを王城の至るとこに施されてあるのが普通。帝国の領事館だって...例えば、皇女、ほかに衛兵や駐留武官に領事大使などを悪意を持って騙そうとすれば」
爆撃警報みたいな、サイレンが鳴り響く。
そ、ふとした瞬間にあたしは、ヒルダに向けて殺気の乗った“悪戯”のちっこい火炎級を飛ばした。
もちろん、口を尖らせて吹きかければ消える程度の...小さな火炎級である。
ヒルダの視線がまな板に突き刺さる。
いや、あるけど...
誰かに背中みたいって言われたことがあるんで。
自虐です。
「そ、そういうこと」
蝋燭に灯された火のように、吹いて消す。
火遊びはその辺で。
領事館で通常業務に従属してた、職員たちがヒルダの戸口に集結してた。
武官は獲物まで持参している。
「あ、もう大丈夫。悪戯好きのライター娘が、ね。...やらかしただけだから」
ライター娘で皆が、
お騒がせな子ですねえ~
だって。
マジ、それで通用するほど雑じゃね?
雑じゃね??
「他人の領事館燃やそうとした行為は、どこの関係機関に通告したらいいのかな?」
いえ、雑で結構です。
いやあ~ あたしエルフなんで...人族の慣習、わっかりまっせ~ん...
「じゃ、だいたいは分かったでいいかな?」
「領事館でもこの騒ぎになるのだとすれば、殺意、悪意、いずれにせよ敵意を持ち込んだ魔法の類は、打ち消されて警報が鳴り、衛兵や近衛などの軍隊までが召集されると!?」
ミロムさんは納得した。
というか、あなたも王城勤務では?
「だから、私は師匠の手伝いで王城には行くけど、未だ籍は冒険者!! ギルドでゴールド・チョーカーの依頼をこなしたり、手伝ったり、新人教育を引き受けたりするしがないもんだって言ったよね? 言ったよ、私、散々言ったよね??」
「は、はい...確かに、そんな話あ、ありましたね」
彼女の目もマジ、怖え。
あたしが床に押し倒されてるし。
ミロムさんの頬脇から見える、ヒルダの押し殺した表情に敵意。
ああ、もう...
嗤うなし!!
「ご、ごめん。パンツ見えてる」
◆
ジブリィ藩・領都の城に、例の3人組が入城した。
見るからに怪しい雰囲気なのに、領城の兵は俯いたまま微動だにしない。
見てはいけない人の訪問だと、ちゃんと分かっているからだ。
「やあ、ご苦労さん」
藩主近衛騎士団長、自らのお出迎え。
馬車の扉が開かれると...
青年マディヤ・ラジコートが、天頂の陽を浴びた。
「コンバートルからだと...」
眉をひそめ、
「20日...くらいかな?」
「いえ、22日です。急ぐ旅でもなかったので、王国の街道沿いをゆっくりと観光もできました」
なんて感じの柔らかい口調、
探り合いのないゆるさで、降りてきた少年と握手しあう。
そして深くハグ。
スキンシップだ。




