戴冠式 内乱 9
帝国の好戦派たちは、ひとつの作戦案を練り上げる。
“コンバートル騒乱”とよばれ、なんらオブラートに包む気のないストレートな計画書。
万が一にも、表に出たとしても勘づかれないよう...
隠語はあって――“河川拡大事業”とか呼んでた。
帝国の西部には、頻繁に氾濫する河川があり、ここの流れを変える事業が急務とされてたもので、およそそれらになぞられたと思われる。しかし、最終的に計画案は、皇帝を含む上層部によって却下された。
内容として――。
1)コンバートル国王を傀儡化させる
現実的ではないと、告げられた。
仮にできた場合の反作用は、自国にも向けられるからという“恐れ”が抱かれた。
もっともだし。
あたしも、怖い。
2)兄弟に確執を生じさせる
第一子以外を、候補となるよう仕向けるものである、が。
1)と同じ理由で実現が困難だとされた。
仮に、ふたりの成人した王子の派閥を動かせたとしても、長兄を裏切るとは考えにくいとした。
もっとも、暗殺未遂でも仕込まれたら...と、匂わされて枢密院も、流されそうになった。
3)外戚たちの取り込み
ハラスメントのみで良いとする案。
嫡男の第一王子と第二王子、第三王子ともに腹違いである。
第一と第二の乳母だった女性が、第三王子を産んだ。
外戚のバランスは、極めて不安定だった。
けども、皇帝は承認しなかった。
大剣を振り回すヒルダの下に来て――「余の治世では、勇者とともに世界を救ったという覇業のみで良いと思っている。いたずらに敵を作り、他国の混乱で国が富むのは余の本意ではない」とか。
その皇帝陛下も、
愛娘に負けず劣らずの武人でね。
大剣を2本担いで、最前線のあたりか、なんかで戦ってるらしい。
いや、めっちゃ忙しそうで、さ。
国内の切り盛りは、皇太子である長兄がやってると...なんとか。
もう実質の王さまらしい。
そのまま王位継承するかも。
◇
「計画が修正されていなければ、国王は偽物で継嗣問題は棚上げか、或いは適当な人物に譲るという宣言をする――まあ、実際にベリア男爵と私の試合中に、国王が何か発表してたと思う。事前に喚起されてたとは言え、間に合わなかったんだよなあ」
お、それは...
あたしがヒルダの剣を弾いたからですかね。
「暗殺する必要はあったの?」
ミロムさんは、書簡を彼女に返す。
ヒルダは受け取ると、蝋燭の火で炭にした。
「も、や...」
「こういうのは残さない主義。燃やせなければ、食べるものだと教わるんだよ」
ほう。
暗殺者ってのは徹底してるんですね。
「いや、武人としての心構え。...いい、忘れて...暗殺の必要性は無くなってたかも。でもまあ、背景に拘らずに任務遂行は、私たちの世界では当たり前だからね。これを少し離れてみた場合...は、まあ落ち着くとこに落ち着いたようにも見えるんだけど」
自信はない。
そうぼやく。
「今、危なっかしいのって...」
勢力の話だ。
当然、第三王子の祖父陣営だろう。
唐突に神輿の神体を失ったようなものだから、腸が煮えくりかえっている頃だろう。
ヒルダとしては、争う二大派閥の一つを争う前に、芽を摘んだと思ってた。
摘んだと思ってた...




