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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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戴冠式 内乱 9

 帝国の好戦派たちは、ひとつの作戦案を練り上げる。

 “コンバートル騒乱”とよばれ、なんらオブラートに包む気のないストレートな計画書。

 万が一にも、表に出たとしても勘づかれないよう...

 隠語はあって――“河川拡大事業”とか呼んでた。


 帝国の西部には、頻繁に氾濫する河川があり、ここの流れを変える事業ことが急務とされてたもので、およそ()()()になぞられたと思われる。しかし、最終的に計画案は、皇帝を含む上層部によって却下された。

 内容として――。


1)コンバートル国王を傀儡化させる

 現実的ではないと、告げられた。

 仮にできた場合の反作用は、自国にも向けられるからという“恐れ”が抱かれた。

 もっともだし。

 あたしも、怖い。


2)兄弟に確執を生じさせる

 第一子以外を、候補となるよう仕向けるものである、が。

 1)と同じ理由で実現が困難だとされた。

 仮に、ふたりの成人した王子の派閥を動かせたとしても、長兄を裏切るとは考えにくいとした。

 もっとも、暗殺未遂でも仕込まれたら...と、匂わされて枢密院も、流されそうになった。


3)外戚たちの取り込み

 ハラスメントのみで良いとする案。

 嫡男の第一王子と第二王子、第三王子ともに腹違いである。

 第一と第二の乳母だった女性が、第三王子を産んだ。

 外戚のバランスは、極めて不安定だった。


 けども、皇帝は承認しなかった。

 大剣を振り回すヒルダの下に来て――「余の治世では、勇者とともに()()()()()()という覇業のみで良いと思っている。いたずらに敵を作り、他国の混乱で国が富むのは余の本意ではない」とか。

 その皇帝陛下も、

 愛娘に負けず劣らずの武人でね。

 大剣を2本担いで、最前線のあたりか、なんかで戦ってるらしい。

 いや、めっちゃ忙しそうで、さ。

 国内の切り盛りは、皇太子である長兄がやってると...なんとか。

 もう実質の王さまらしい。

 そのまま王位継承するかも。



「計画が修正されていなければ、国王は偽物で継嗣問題は棚上げか、或いは適当な人物に譲るという宣言をする――まあ、実際にベリア男爵と私の試合中に、国王あれが何か発表してたと思う。事前に喚起されてたとは言え、間に合わなかったんだよなあ」

 お、それは...

 あたしがヒルダの剣を弾いたからですかね。

「暗殺する必要はあったの?」

 ミロムさんは、書簡を彼女に返す。

 ヒルダは受け取ると、蝋燭の火で炭にした。

「も、や...」


「こういうのは残さない主義。燃やせなければ、食べるものだと教わるんだよ」

 ほう。

 暗殺者ってのは徹底してるんですね。

「いや、武人としての心構え。...いい、忘れて...暗殺の必要性は無くなってたかも。でもまあ、背景に拘らずに任務遂行は、私たちの世界では当たり前だからね。これを少し離れてみた場合...は、まあ落ち着くとこに落ち着いたようにも見えるんだけど」

 自信はない。

 そうぼやく。

「今、危なっかしいのって...」

 勢力の話だ。

 当然、第三王子の祖父陣営だろう。

 唐突に神輿の神体を失ったようなものだから、腸が煮えくりかえっている頃だろう。

 ヒルダとしては、争う二大派閥の一つを争う前に、芽を摘んだと思ってた。


 摘んだと思ってた...

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