戴冠式 内乱 8
「も、もちろんです」
って泣き崩れるように、ヒルダの膝に縋りつく。
ミロムからの視線が背中に刺さって痛いけど。
「相当深刻だね?」
ヒルダとミロムは、同じ高さの目線で交し合っているようなんだけど...
足元のあたしにそっと手が差し伸べられる。
相手はミロムだ。
「じゃ、鬼火に参加してよ」
おっと、今そこでバイト以外の仕事は。
「そこで渋るか... こりゃ、協会に相当飼いなされているようだな...パンツのゴムまでしっかりと握られてる感じ?」
んにゃ、そこまででは。
あっちもこっちもと、手広く仕事するほど器用じゃないというか。
それをやらかして...
悪いギルド長に捕まってた。
いやあ、あれは本当に...
身売りされずに済んで良かった。
「でも、お金は欲しい、と?」
何故かと問われる。
まあ、現実逃避してたけど――ついこの間。いや、宿屋に戻って“剣”を取りに帰った時、あたしに届いていた催促状を偶然目にしてしまった。これで一気に現実に引き戻されたんだわ...踏み倒し損ねた借金の一部。
これの債権者は“コンバートル王国”に名義が移ってた。
利息分を返したら、財布がすっからかんになった。
で、青ざめたのだ。
「同情するけど、自業自得とも」
ヒルダが餞別代りに業物の剣を選んでくれる。
「これを売れば...」
「や、やだ! それじゃあ、縁切りみたいじゃん」
小さくうなずき、
「それに近い... 領事館の方は流石に人手が足りてるし、ぶっちゃけると現地採用枠で問題児を雇うほどの余裕はないんだわ。てか、皇族だと言っても私にそんな権限もないし」
しかも、この姫には護衛も必要ない。
と、すると...いよいよ詰んだっぽい。
じゃあ、どうするか。
ミロムの微笑みが眩しすぎる。
「選り好みする余裕もないんでしょ?」
そ、それはそうなんだけど。
膝にしがみつくあたしを、必死に引き剝がそうとするヒルダは...。
「じゃ、じゃあさ。私の仕事を手伝ってく?」
彼女の仕事が暗殺だと、冷静になれたのは引き受けた後だった。
◆
ドーセット帝国としてみる、この大陸の政情というのは“混乱”してくれている方が、安心であるという。理由は、信用の問題らしい。
帝国からすれば、コンバートルは小国である。
海によって物理的に隔てられているから、脅威度は小さいが。
そうした好条件を利用して、彼らは私掠行為に走った。
政情が安定し、国力が増せば...
今は大人しくとも、再び同じことをするかもしれない。
そういう不安が漠然としてあった。
本国から、ヒルダ宛の書簡にあたしが目を通す。
あたしの手からミロムにも渡る――「まさか、ミロムまでついてくるとは思わなかったけど? あんたの場合、リーズから給金出てるんじゃないの」
それは初耳です。
ミロムも頷き、
「ま、ちょっとだけね。師匠の手伝いとか...見習いだから給金は少ないよ」
お、おう。
同期が出世してて、あたしとしても鼻が高いよ。
「やせ我慢しなさんな!」
目の前に金貨がちらつく。




