戴冠式 内乱 7
ドーセット帝国がドライな方針を貫くのは、この大陸に関わる旨味がないからだ。
かの帝国がある大陸の方が大きい。
もうちょっと卑しい目線で、事実を告げれば、だ。
もっと大きな土地が、目の前に広がっている。
故に。
コンバートル王国をはじめとした大陸には、ちょっかいを出そうという気にならないのだ。
表向きにはだ。
「賠償金って?」
「最初の取り決めでは数年程度だったみたいだよ」
詳しく知らないけどと、つづけた。
が、出し渋ったあと元本がどうなったかは、当事者は知っているのだろうか。
「支払いは年を追うごとに細くは...なったようだけど。分割手数料分は、払ってくれてたみたい。いや、さ...支払いが苦しいのならば協議を持ち掛ければいいんだよ。そもそも、帝国籍の民間船を襲撃してタダで置かれる筈もないのだし。プライドとか言ってる場合じゃないじゃん?」
王国の生産力が低下したという話は聞かない。
ただ、他国に賠償金を払いながら...。
軍備の増強をしてたとも考えられない。
じゃ、どこから軍備の拡充がなされてるのかって流れたか、だ。
◇
ヒルダの自室脇に武器庫がある。
あたしの装備もマネキンに着させて、飾られてた。
ミロムが業物でもない、なまくらの剣を眺めてる――それ、あたしのだ。
「未だ、こんなんで?」
冒険しているのかって問うてきた。
無言でうなづく。
試合に出るから持ってきたけど、結局、自分の獲物を使うことはなかった。
後輩が借りてくれた宿から、こっそり持ち出した装備。
普段は、寝袋と一緒に丸められて仕舞ってある。
「これ、卒業試験の...」
「バランスのいい剣って、なかなか見つからないからね。街に行けば...」
ミロムが首を傾げた。
「セルコットは、街行かないじゃん」
あたちは、ミロムの顔をみつめる。
彼女もこっちをじっと見てるんだけど――なんか、ね。なんか笑うしかできなかった。
あれ?
一つの街に縛られることが無かった頃は、工房を覗くことが常だったような。
不思議だ。
あれって、いつのことなんだろう。
「こんなトコにいるってことは、もう、出る準備が整ったのか!!」
あたしは筋金入りのニートだ。
しかも給金さえ貰えれば、このまま領事館で働いちゃっても、全然かまわないと思っている。
「なんか良からぬことを考えているようだが、軍属が多数、武官として派遣されてるから...火の玉娘の居場所は、何処にもないからな。間違っても売り込みに行くんじゃないぞ」
って言われるのが、もう少し早かったら。
あたしの苦笑が顔に浮かび上がる。
セルコット・シェシーの名は、帝国にもやや微妙な伝わり方で有名だ。
あたしの詠唱する“火炎球”は炎属性の火蜥蜴さえ食べ頃にするという。
食べた事なんてないけど。
そういう宣伝になってる。
誰がしたんだろう?
で、
間違われるのが――「いやあ、料理人は間に合ってるから」だ。
傭兵か、冒険者でバイトを...
あしらわれる。
誰かの吹聴のせいでもある。
これの“ドラゴンも、手頃に調理する火の玉娘”ってのが、いくつかの仕事があたしの指の間から、零れ落ちていった。
いうなれば、だ! 奪われたんだわ。
「売り込んだけど、丁重に断られちゃった」
涙目。
協会からは未だ、前金しかもらってない。
仕事の内容は、例の“妖精の粉”追跡だけど。
王都に入ってからは、そんな噂はとんと聞かない――ドーセット帝国の領事館でも、首は横に振られたのだ。スパイ活動だってしているだろう帝国が知らないのだから、完全にお手上げである。
摘んだあって思ったんで。
バイトしようと思った。
「ふ~ん」
ヒルダさんの部屋着は、ヨレたシャツに短めのホットパンツ。
足元は裸足という、姫に見えない姿。
姫には見えないけど、平民でもない。
シャツは、シルクかなあ。
「バイトね、そんなにお金欲しいの?」




