戴冠式 内乱 6
ラグナル聖国の玄関都市として、辺境公・藩主ジャーン・ジャシーィはその名跡を、幾代にも重ねてきた民である。また、聖国の譜代として絶大な信頼も勝ち得てた――コンバートル王国・第11代王が来訪するまでは。
聖国祭とか、竜を御した聖女の生誕祭とも呼ばれる、国教の式典に招待された各国の王族たち。
神秘の国・姫巫女を一目見ようと、大陸中の人々が押し寄せたその席で、11代王はジブリィの姫と恋に落ちた。
いや、それは違うか。
王の手付きにされたんだわ。
しかも、無理やり。
彼女の兄で、藩主だったジャーン・ジャシーィ21代目の怒りは、怒髪天に達する。
まあ、彼女には、幼いころから夫婦になる約束が交わされてた。
聖国・執政官の子息だったんだが。
当然、破断で白紙。
運が悪いことに、彼女は、王子を生んでしまった。
◇
「老翁さんの過去はこの辺にして...あなたは、国王に成りすました訳ですよね? では、単刀直入にお聞きします、王はどこで殺したのですか!!!!」
教授はざっくり切り込んだ形。
内心はみんな、思ってたこと。
国王に成りすますなら、彼はもういない。
近衛騎士団の態度は物語る。
そうまでして、偽王を隠すのなら...
「検視はもう十分だ!」
「老翁は未だ、答えてませんが?」
真相を探る方と、探られたくない側の攻防。
行きつく先は――武力衝突だろうか。
騎士らが柄に手を掛けたところで、
肩越しに影が差す。
背中に灯があったから、己の身をも覆うとなると...
恐る恐る振り返り、
「まあ、その辺で止めときなって」
怪我するよ?
大鎧の巨漢が立ってた。
天井に被った兜が擦れるようで、首を斜めに傾けて眼光だけが、ギラギラと光ってるように見えた。
ちびりそう!!!
わかる、わかる。
あの人の地下に入った時の窮屈そうなの表情がもう、めっちゃ怖い。
「う〇こ、でそう...」
とか、言っても笑えないジョークが定番で。
それも合切で怖い。
まあ、いろんな意味で怖い。
ゾディアック・マーシャルアーティストのガムストン・レイといえば、リーズ王国でもタダ飯くらいは食える知名度だ。ま、その代わりにだけど、名のある武芸者から執拗に狙われるんだけどね――そりゃ、ひとつお手合わせを、とか。
果たし試合ですよ。
◇
「――で、この爺さんが? 齢50ちょいの国王さんに化けてた...と???」
悪い冗談はやめて、よし子さん的な言い回し。
「ちがう、ちがう...それを言うなら“悪い冗談はよし子さん”だ!!」
何の訂正?
宗主を覗き込む死霊。
じじい同士に親近感でも、湧いた?
「あの」
「で、どこに埋めたんだね?」
問い詰めると、騎士団を指さす。
当の本人たちからは『裏切者!!』なんて声が飛んだけど。
近衛騎士団すべてが関わっているとも、思えない。
「じゃあ、さ。生きてる君たちにも問うんだけど?」
魔王使いの巣窟では、今日も尋問にむせび泣く、誰かの声が木霊してた。
それは或いは、死霊の声かもしれない。
◆
王国内で、第二王子とナジク伯爵、近衛騎士団長と対抗できる人物は少ない。
彼らが官軍になるのは必定だから。
いや、早晩にも第二王子は即位式を済ませて、新王へと位を変えるのだろう。
新王は病がちとして、国父となった後見人の伯爵と団長の専横政治が始まる。
「ドーセットはどうするの?」
ミロムは、あたしの代わりにヒルダに問う。
膝の上には幅広の大剣があった。
手入れの手を止めさせたのだけど...
「どうもしないと思うけど、この領事館は完済を見届けるために置かれてる。先の王が渋ってきた賠償金、耳をそろえて差し出すってんなら、その時点で引き払ってもいいかもね」
すげぇー、ドライじゃんよ?




