戴冠式 内乱 5
王宮から離れざる得なかった腹違いの末弟は――父王から認知はされても、兄弟たちからは認められることもなく、市井に降らざる得ない状況に陥った。
平民出身の母のせいでもあるし。
豪商とか豪農などの後ろ盾もないからってのもあった。
彼を受け入れたのは、婿が欲しかった王宮占術師の家である。
まあ、今から思えば、だ。
王族の血統が欲しかったんだと思われる。
腐っても、だ。
庶子とはいえ高貴なる王家の半分。
もっと薄くなるけど、系譜に〇〇代国王の末弟が連なるのだから、名誉であることは間違いようない。
誰かに自慢することがあれば、だ。
「俺のじいちゃんは、王様の弟なんだぜ!」
って感じだろうか。
これに乗るとしたら、
「おお! すげえじゃんよ?!!!」
ってな、盛り上がりになる。
酒場やスナック、ホステスさんのいるガールズバーなんかでは人気ものだろう~ねえ。
でもね、
「それはお前のじいちゃんが凄いんだって話で、お前じゃないなじゃんよ?」
とか、空気を読まない子も確かに、ある。
そういう時は、先ず。
殴っちゃおう!!
(脳筋かっ!
いやいや、いあ...今のは忘れてくれ。
えっと。
先々代王の正室は、塔に幽閉されがちだった。
原因は、今、降霊された翁のせいである。
本人はその気も、覚えてもいない。
ただ、ちょっと気まずい憧れを口にして、寂しそうな顔に微笑みを灯したかったとか。
こいつの無自覚から、はじまった悲しい物語である。
◇
降霊した霊の傍に立つ教授。
「あなた、妖精の粉を使用しましたね?」
死霊が近衛騎士団らに目を向けた。
当然彼らは、そっぽを向いて鼻歌である。
もう、分かり易い子たちだなあ。
「ああ、使った」
掠れて声が出ないかと思ったら、
意外に流暢な、北方地方の訛り入りの公用語で喋ってた。
本人も驚いているようだ。
「上品な響きですね。王都から北方となると...ラグナル聖国ですか。老翁は、そちらのご出身ですか?」
教授の問いには困惑しているようだ。
白い母の手で引かれて、
王都に来たのは5つの頃。
それよりも昔となると...さすがに覚えてはいない。
「この方の母君は、市井の方としか」
そうなると、解せない。
王国の公用語は、耳で聞く限りは鼻にかかった感じで、巻き舌を多用する。
舌足らずだと、何喋ってんだか意味不明になるんだけど。
高貴な人たちは、そのコンバートル語ってので意思疎通してた。
しかし、ここで一つ。
市井の人たちは違う。
鼻にかからず、抑揚もないし、巻き舌も使わないで喋ってる。
若干、べらんめい調が粋だとか言ってる雰囲気か。
だから、市井で育ったんなら...
老翁も、市井訛りが出てくるはずなのだ。
「ラグナルも、国境付近はコンバートル語でしたよね? あの地域で大きな都市というと...」
「ジブリィ、ジブリィって町が大きく、藩主ジャーン・ジャシーィ殿が納めている辺境領ですね!」
侍医長のどや顔。
私だってこの位は、って胸だって張ってた。
婆さんは、そのまま大人しく。
「読み書きとなると、手習いは最低限受けられてた...」
「何の話をしている?」
死霊の翁も狼狽えてる。
死体の見分は、教授の弟子たちによって終わってるから。
あとは降霊した死霊との面談のみである。
彼がどこまで覚えてるか...
ではなく、
何をしたかについて問いただす準備に入ってた。
そう、
何をしでかしたのか。
そのことに焦点を当てる。




