戴冠式 内乱 4
魔法詠唱者協会の学術院に出来た新しい学科。
まだ運用は試験的な段階で、予算としてもそう、多くは支給されてない。
いや、死霊術者たちによる趣味みたいなところから派生したってのもあるんで、実績も曖昧なのだ。
しかも!
肉体を視るのと、死者と面談するまでがセットなので、今までの降霊術と何が違うのかって根本的な問題があった。
でもね、死霊術者本人たちから聞くとね...
わりと頷けるというか。
パターンA)
種族ごとの習慣葬後に『やっぱり何か変だ!』って、気が付くケースがある。
死者の蘇生魔法ってのは、金の掛かるもんだし。
普通は死を受け止めて、蘇生しようとは思わないもんだ。
で、葬儀をしちゃう。
事件性があった可能性について、
本人を呼び出すんだけど...これの多くが、いやあ十中八九で本人さえも覚えていないんだわ。
転んで机の、或いは猫足の浴槽かどにぶつかった――なんて、不確かな情報しか貰えないことの方が多い。
いや、いやいや。
そこまで覚えてるのだって稀だ。
パターンB)
ご遺体はある。
でも死者の方が行方不明という場合。
これもまま、あるあるなんだよね。
魔法攻撃の余波みたいな?
どっかに飛ばされたか、強制昇天か、そもそも未練なくて戻る気なしな、状況で発生する。
検視はまだ新しく、普及もしていないから。
死体から何かを得るような方法も学術院内だけに留まってる。
結果、何か気になる点があっても見逃したまま、土葬か火葬にされてきた。
他のパターンもあるんだけど。
侍医長が心配そうに、表情筋の薄い教授を見てた。
「何か?」
「その...いつ、来るので???」
キョロキョロしてる。
宮廷医術者っても、魔女か治癒士の上位互換みたいなものでしかない。
脈をとって、
舌の根、
眼球の腫れとか色、吐く息の匂いに...尿の匂い、味に色とかも見てるんだっけか。
兎に角、王族たちの健康管理に努めて、活動してた。
「もう、来てますよ!」
ちょっと、似て...ないような気もしますがと、添えてみた。
指し示した場所に、ご老体がうっすらと浮かんでた。
翁の方は、拒んだのに強制召喚されたくち。
◇
そう。
遺体が置かれてある台は、特製の魔法陣が刻まれた検視台なのだ。
死霊の都合で降霊がキャンセルされないように、強制力も施されてた。
死者から、プライバシーの侵害だと声高に叫ぶのも出てきそうだけど...死霊術者にすると、呼ばれて応じない、拒否権があること自体がナンセンスらしい。
実験が気軽に、できないんだというのだが。
ま、それは道徳の問題かと。
狼狽える騎士団に、
目が点になる侍医団――。
国王には数回程度しか会ったことのない宗主でも、
「誰、このひと?」
...っ、反応だった。
「こ、この方は...先々代王陛下の...お、弟君に御座います。でも、なぜ?!」
そう、なぜ。
宗主は、人物違いについて疑問を持ったわけじゃあない。
教授が軽く頷いた。
くだんの“妖精の粉”事件の痕跡を見た。
残ってる筈は無いと、使用者の本人だって思ってたし。
運び屋になった3人も...
見届けもして確信した案件だった。
「生前もよく似た風貌だったんでしょうねえ。...それでも、加齢による骨の変形等は、隠しようもありません。強制的に呼びつけたあなただけでも、言質を取ったようなものですが...私の新しい学問の為に良き、礎になって頂きたい!!!」
一応、損得はある。
なんの利益にもならない可能性だって、捨てきれないけど。
教授は、遺体の変形した指の骨を指してた。
「これは、野良仕事も満足にしたこともない...50歳手前の、高貴なる方の手じゃあありませんよね?!」




