戴冠式 内乱 3
コンバートル王国に建設された、魔法詠唱者協会の施設は“学校法人”である。
まあ、こいう世界観では魔法学校ってのは、貴族の子弟や金持ちが通う“私立”か“王立”などの経営スタイルが平常で。
平民が通えるような敷居の低いものではなかった。
だから識字率は低いままだし。
まあ、まともな教育も受けることが出来なかったものである。
中世ヨーロッパの通説として...だが。
さてと。
魔法詠唱者協会の方針とはちょっと違う。
そもそも、見栄と権力、守銭奴の多い貴族社会と、豪商の倅どもと...
市民との間にこと、魔法の才能で大きな優劣は、全くない。
むしろ市井から“賢者”と呼ばれるような人が、多く出ているものだ。
と、宗主は常々校長をも差し置いて、壇上でそう宣う。
まあ、一理ある。
だから“私立”なのに平民にも広く門戸を開いているわけだ。
◇
どんなに先進的な魔法学術や、学科があろうとも。
見栄っ張りな貴族とその倅たちは、元ある“王立魔法学院”なる格式高い学校の門を叩く。
古臭いカビの生えた魔法を教科書通りに教えるスタイルだとしても。
ちょっと前に交流っていう名の“競争”があった。
ま、それちょっと笑えるんだけど。
協会では――「魔法とは創造力することが最も大事です。具体的なイメージをそれぞれの頭の中で描いてみましょう! 先生の私は“水”です...手のひらを受け皿のように構えて、その中に水が溜まっていくように創造します...」
すると、教師の両手の椀から水が溢れだした。
無詠唱だったことも驚きだが、
手のひらの中で生み出された“水”を飲むことが出来た。
「まあ、飲料水をイメージしましたからね」
...だ。
この授業は、まあ、圧巻だったらしい。
何せ、王立の教師陣も『馬鹿馬鹿しい』なんて悪態をつきながら、同じようなイメトレをして無詠唱魔法の安全な実験に成功したからだ。普通ならば、だれか一人が暴走するようなことが起こるものだけども...協会の教師陣は、ひとりひとりの生徒の傍でイメージの補助輪になったというのだから。
事故が起こるはずもない。
まあ、それで意識が突然に180度、変わることはないんだけど。
無料講義には多くの聴衆客が来るようにはなった。
さて、その学校法人にだが。
施設の地下には検死室がある。
新設された新しい学問の為の施設で――魔法医学・高等科というものらしい。
主に集団の欠損部位治癒魔法。
他に占術や召喚術などで受胎を探ってた旧式を廃し、より医術寄りの方法で知る、学問・法術などの研究がおこなわれている。いや、もうちょっと丁寧に言えば、現在進行形で模索中だとする。
で、その中で...。
変死や疑わしき怪死の検分、検証から犯罪性等を捜索する“検視学”というものらしい。
新しすぎて、ついてける学生もごくわずかだとか。
えっと...死霊術者が多いっぽい。
これは偏見か。
「で、何を調べるんでしたっけ?」
うっすい表情の男が、死体を妙な台の上に置く。
彼は、これでも“検視学”の教授だという。
「とりま事件性じゃな」
宗主のぼやき。
前髪を無造作に掻く教授は、
「第一王子に暗殺されたんでしょ? めっちゃ事件じゃないですか」
その通りだ。
何をいまさらってのはある。
侍医長の婆さんも疑うように、宗主を見てた。
この人、やるきあるのかな――って目だったと思う。
「ほら、意味がないことだろうに!!!」
ってのは、近衛騎士団。
腹の探り合いなのは一目瞭然。
「あ~、そいう態度はないっスね。これからご遺体と向き合うってのに、そういう態度は...あの世から来る人に失礼だって話ですけど? 続けるんすか」
侍医長は、
「えっと...あの世?」
「ええ、呼ぶんですよ...検視学、死霊術者なんでね」
あ、うん。
やっぱり交霊術もするらしい。




