戴冠式 内乱 2
魔法詠唱者協会でもひとつ騒動があったようで。
まあ、それが国王の遺体だ。
王宮侍医団の方々が不審がっちゃった見たいで、近衛騎士団の目も盗んで持ち出してきた。
しかも、バレたっぽいってことで、一触即発になりかけた。
「さあ、大人しく返していただこうか?」
ご遺体の話だ。
侍医団長は、協会宗主の背中越しに――
「ダメです!! ここで魔法のアドバイス貰います!!!!」
と、宣った。
「いや、そのやり取りはワシ抜きで」
間に立ってる宗主も困りものだ。
肩越しから覗き見る、侍医団長のウルウルとした瞳に――段ボールの箱の中でうずくまる小動物のような...愛らしさはないけども、どっちも似た年齢の爺さんであったり、婆さんであったりするんで。ただ、まあ放ると後が面倒なような、気もする雰囲気があった。
「まあ、まあ、ここはちょっと肩の力を抜きませんか?!」
中間の提示。
騎士団からは“一切関りが無いであろう”なんて、強く言われたけども。
協会宗主としても、まあ引けなかった。
コンバートル王国への進出に、ドーセット帝国が骨を折ってくれたわけで。
ここで引っ込むと...
皇帝に笑われそうな気がした。
ドーセット帝国とは妙な、関わり方がある為だ。
「そう邪険にせんでください。こちらとしても骨を折ってくれた帝国の顔を立てなきゃならん身なのです。よって、どうでしょう? 今、この場にある皆さんとご一緒に、検分なさるというのは...」
公開検査の提案。
騎士団のざわつきが気にはなったけど。
宗主の口にした...
ドーセット帝国の方に遠慮がちなような雰囲気となって、たぶん渋々。
いや、間違いなく脅されたと思ってる。
「了解した! ただし、結果はいずれであっても非公開とする!!!!」
って言ったもんで。
推測が確信へと変わった瞬間。
これは十中八九で真っ黒だと。
◆
大型の帆掛け船で航海って3週間余り。
近いような、遠いような地にもう一つの大陸がある。
その地の玄関口が“カブル”。
旧い時代の地図によれば、その地は内陸にあった都市だったという――天候異変や、地殻変動さまざまな天災が重なって、星は叫びながら砕けたという。まあ、大地が引き裂かれたとか...そういうのだとは思うけど。
ひとつの大陸だったところに、ふたつ、みっつと島大陸が増えたんじゃないかと考えられる。
そのうちの一つが、コンバートル王国を載せた大陸なのだ。
さて、交易都市“カブル”の統治国が、ドーセット帝国だって話。
勇者の庇護国としても知られ。
ただいま波に乗っている大国の一つでもあるという。
ま、そんな帝国に嚙みついたのが、コンバートル王国。
私掠船を用いて、狡くくも帝国の民間船を襲いまくった――結果、海上決戦で大敗を喫したというのだから目も当てられない。王国にしてみれば、帝国旗を掲げてる船が“民間”か“軍艦”かの区別もついてい無かったというのだから、お粗末すぎる。
多額の賠償金と、返済監視のために領事館が置かれたという。
あそこは、そういうものだった。
ああ、道理で市民の人たちも、恨めしそうに見るわけだ。
いや、負ける戦をした王国を恨めよ。
あ、でも...
為政者って、自分の責任はちゃんと取らないからなあ。
で、帝国のは禁忌となる。
いやいや、でもね。
そこはそれ、建前じゃあメシが食えない。
民間交流はあって...
帝国とは線が細いけど、交易はしてるんだよね。
大陸北方の“シュメール公国”を経由したものだけどね。
王都から馬の脚で、20日あたりかな。
馬車になると、30日はかかるかも。
ま、嗜好品でも“ナマモノ”は無理だけど。
それなりに実入りは良いらしい。




