港街の悪い噂 5
翌日目覚めると、天蓋付きベッドの柵四隅から伸びた革ひもで固定されてた。
大の字のマッパ。
辛うじて武士の情けに、股下のデルタゾーンへシーツが掛けられてある。
そうだと分かったのは――天蓋の天井にある鏡でだ。
ああ、なんとも情けない姿であろう。
「こりゃ、貰い手は当分...ねえな」
って独り言のつもりだったけど。
「大丈夫ですよ! 姐さんの妻でも夫でも、私が努めますから問題無しです!!」
頭の上から後輩の声。
ったく、未だいたんか...お前は!!
「居ますよ、昨晩はあんなに激しく求められるなんて」
覚えてねえよ。
気絶させた挙句に、麻痺毒たらふく沁み込ませてたじゃねえか。
「そうでした?」
「...ったく」
解くの待つしか...
「解きませんよ。トッド先輩が定時連絡するっていうんで...先輩を独り占めしていいって許可貰ったんで」
「は?」
要するに、気絶中の看病を買って出た後輩は、だ。
かこつけてあたしをつまみ食いしたのだという。
で、その第二ラウンドがこれから始まるのだ。
おいおい。
◆◇◆◇◆◇◆◇
アサシン君の報告方法は彼の所属する、アサシン教団という組織が挟み込まれる。
この教団は、魔法詠唱者協会が出資しているグループ組織でもあった。
収支報告では...確か本体をも上回るんだっけか。
「ガムストンさん」
教団の奥にある修練場で汗を流す男がある。
手練れの暗殺者を相手に、多対ひとりって感じの立ち合い。
トッドの顔を見て、眉根だけ上げて応答した。
「どうだった?」
というのは、あたしのこと。
戦力としては十分に使えると判断されている。
が、探索任務とか、そっちの評価は未知数だった。
「本当にひとりで盗賊団を潰してたんですね。解き放った途端に見失ったんで、こっちも面喰いました。紅の彼女が出て来てくれなかったら...査定ができなかったと思いますね」
落ちてきたタオルを腕に絡める頃には、稽古相手は床で蹲っている状態へ。
「マスターが不甲斐ないと思われるので、お手柔らかにお願いします。弟子たちの心は折らないでくださいよ? ガムストンさん」
格闘、白兵戦主体の彼の前で組手は下策。
とはいえ距離があっても、飛び道具を使わない訳ではないので、やはり無駄に下がるのも下策だ。
「“妖精の粉”の方は?」
小男と巨漢の構図は珍しくはない。
その小男は裏の世界で、指折りの暗殺者である。
小男の弟子たちさえ考える――マスター同士が戦ったら、誰が勝つのかと。
「お前たちは技を磨け、そんな無駄なことが考えられないように、な」
と、弟子の足元に小刀が投げ込まれる。
「いいのか?」
「何がです...」
ややムッとした表情を、ガムストンに返して見せた。
「お前が最強だと伝えなくて?」
肩を竦め、
「止してください。火炎球ひとつクリティカルヒットで、幾重層ものダンジョンを吹き飛ばした挙句。地表に巨大なクレーターを生じさせたエルフの前に、誰が最強なんて無意味じゃありませんか?」
ガムストンは天井を仰ぎながら、
「違いない、些細なことだな」
と、零した。
怪奇な現象が起きているのは、いずれも街の再開発地域から以南になる。
冒険者ギルドの行方不明者も街の倉庫区で、消息を絶ったとみられていた。
「真相といってもレベル的には、騒がられると不味いって雰囲気じゃないか。感触的には彼らも薬の実験台にされたようにしか見えん、な」
ギルドを通じて更なる手練れが送り込まれるよう、わざと泳がしてた。
頃合いを見て拉致したと考えた。
「冒険者ギルドに警告を」
「いや、あくまでもその可能性だ...下手に動いたら、意図の読み間違いで地下に潜られるとも」
最悪は、資金と人を提供してた領主を差し出して、有耶無耶にされる間違いを犯すことだ。
協会が絡む以上は成果が大事なのだが。
「紅の修道女さんにも期待ですね」