戴冠式 内乱 1
第二王子の戴冠式まで、待ったナシの滑り出し。
第一王子による陰謀論とか、王族内の粛清問題なんかも取り沙汰されて、空中戦も盛んに行われたんだけど。結局のところ、第二王子の周囲にそんな絵図を描けるような、大物が存在しなかったことが彼自身の身の潔白へとつながった。
まあ、それはそれで身も蓋もないというか。
為政者として、どうなの?的な。
陰謀ではないとすると、つじつまも合わなくなる。
動機なき殺人?
それって、ただの事故じゃん...
「そ、そうだ父上は?!」
国王の遺体だ。
国王に成りすました翁の遺体は、腐敗した。
保存ができるレベルでなく、瞬く間にしわがれたミイラへと変貌する。
佇まいなど、骨格レベルから国王に似ていた翁だ。
ミイラになって薬の効果が切れた後でも...
シルエットだけでも、国王に見えたという。
だから、
「陛下がどうなさいました?」
「兄上の乱心ぶりからすると、もしかして...」
生き残った王子に、近衛騎士のひとりは首を振り。
「継承問題に激高しての誅殺のほかに、国王に成り代わった何者かによる...ですか? あり得ませんよ、貴賓室ではあらゆる魔法への対抗処置が施されているのです。古代語による旧時代の高位魔法でも、それが魔法であれば、カウンターできなくとも部屋が反応したはずなのですから!!」
と、告げられる。
ただし、本当に古代語に反応するかは不確かだ。
あの部屋の設計者である、王宮抱えの魔法使いの言葉を、信じればの話だ。
「そ、そうか」
自信を喪失した王子には、言い返す度胸もなくなっている。
根拠なんてなくていい。
父と子の関係でいいから、食い下がっていけば突破口みたいのは...あったかもしれない。
「だが、しかし...」
少し気概を見せても、
「何か?!」
語気の強い口調で返されたら、
「い、いや。な、なんでも...ない」
だめだ。
だめだよ、この王子さま。
根本的に気弱な人に成ってる。
まあ、分からなくもない。
いっぺんに家族を失った。
自分の目の前で――慕う兄が、尊敬した父王を誅殺したのだ。
彼の知らぬところで、弟も首をはねられた。
これで可笑しくならない方が、よっぽど人間性を疑うってもんだ。
だけど...
◇
別室のナジク伯爵は左手の親指を噛む。
甘噛みだけど、実力者のひとりとしては、やや見てくれの悪い癖だ。
その親指だけが、ほかの指と比べると“太くて短く”なっている。
「王子の軽さが際立っている」
近衛騎士団長は、部屋に入るなりにそう告げてきた。
監視役としての名目で、護衛も兼ねる騎士が、数名配置されているんだけど。
もはや、風前の王国一家にダメ押しの一手を迫るとはやや考えにくい。
それでも...
彼らにしては、不安でしかなかった。
「確保できた者がアレしかなかったは、不満ですか?」
例えば、絵図を描いた者が、絵図の有無を調べる側にあったなら。
「不満が無いと言えば噓になる。現に憂いているのだからな」
卓上の差しから、盃にワインを注ぎ入れ。
盃の中身を飲み干した。
近衛騎士団長は、軍部を掌握する。
伯爵は、王都の貴族院を――。
「神輿は軽い方がいいとは聞く。聞くのと、実際に担ぐのとでは...聊か、そうだな実態がまるで分からぬな!? 伯爵はどうだ、この軽さが丁度よいのだろうか?」
王子は今、吹けば飛ぶような存在だ。
重しがまるでない。
そんな彼を担ぐ方も肩にかかる何かの実感がないので、感覚的に気持ち悪いと嘆いてた。
まあ、そんなとこだ。
「さて、ねえ」
伯爵も、同じ水差しから注いだ盃を飲み干す。
その目はやや遠い空を、見据えてった。




