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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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戴冠式 内乱 1

 第二王子の戴冠式まで、待ったナシの滑り出し。

 第一王子による陰謀論とか、王族内の粛清問題なんかも取り沙汰されて、空中戦も盛んに行われたんだけど。結局のところ、第二王子の周囲にそんな絵図を描けるような、大物が存在しなかったことが彼自身の身の潔白へとつながった。

 まあ、それはそれで身も蓋もないというか。

 為政者として、どうなの?的な。


 陰謀ではないとすると、つじつまも合わなくなる。

 動機なき殺人?

 それって、ただの事故じゃん...


「そ、そうだ父上は?!」

 国王の遺体だ。

 国王に成りすました翁の遺体は、腐敗した。

 保存ができるレベルでなく、瞬く間にしわがれたミイラへと変貌する。

 佇まいなど、骨格レベルから国王に似ていた翁だ。

 ミイラになって薬の効果が切れた後でも...

 シルエットだけでも、国王に見えたという。

 だから、

「陛下がどうなさいました?」


「兄上の乱心ぶりからすると、もしかして...」

 生き残った王子に、近衛騎士のひとりは首を振り。

「継承問題に激高しての誅殺のほかに、国王に成り代わった何者かによる...ですか? あり得ませんよ、貴賓室ではあらゆる魔法への対抗処置が施されているのです。古代語による旧時代の高位魔法でも、それが()()であれば、カウンターできなくとも部屋が反応したはずなのですから!!」

 と、告げられる。

 ただし、本当に古代語に反応するかは不確かだ。

 あの部屋の設計者である、王宮抱えの魔法使いの言葉を、信じればの話だ。

「そ、そうか」

 自信を喪失した王子には、言い返す度胸もなくなっている。

 根拠なんてなくていい。

 父と子の関係でいいから、食い下がっていけば突破口みたいのは...あったかもしれない。

「だが、しかし...」

 少し気概を見せても、

「何か?!」

 語気の強い口調で返されたら、

「い、いや。な、なんでも...ない」

 だめだ。

 だめだよ、この王子さま。

 根本的に気弱な人に成ってる。



 まあ、分からなくもない。

 いっぺんに家族を失った。

 自分の目の前で――慕う兄が、尊敬した父王を誅殺したのだ。

 彼の知らぬところで、弟も首をはねられた。

 これで可笑しくならない方が、よっぽど人間性を疑うってもんだ。

 だけど...



 別室のナジク伯爵は左手の親指を噛む。

 甘噛みだけど、実力者のひとりとしては、やや見てくれの悪い癖だ。

 その親指だけが、ほかの指と比べると“太くて短く”なっている。

「王子の()()が際立っている」

 近衛騎士団長は、部屋に入るなりにそう告げてきた。

 監視役としての名目で、護衛も兼ねる騎士が、数名配置されているんだけど。

 もはや、風前の王国一家にダメ押しの一手を迫るとはやや考えにくい。

 それでも...

 彼らにしては、不安でしかなかった。

「確保できた者が()()しかなかったは、不満ですか?」

 例えば、絵図を描いた者が、絵図の有無を調べる側にあったなら。

「不満が無いと言えば噓になる。現に憂いているのだからな」

 卓上の差しから、盃にワインを注ぎ入れ。

 盃の中身を飲み干した。

 近衛騎士団長は、軍部を掌握する。

 伯爵は、王都の貴族院を――。

「神輿は軽い方がいいとは聞く。聞くのと、実際に担ぐのとでは...聊か、そうだな実態がまるで分からぬな!? 伯爵はどうだ、この軽さが丁度よいのだろうか?」

 王子は今、吹けば飛ぶような存在だ。

 重しがまるでない。

 そんな彼を担ぐ方も肩にかかる()()の実感がないので、感覚的に気持ち悪いと嘆いてた。

 まあ、そんなとこだ。


「さて、ねえ」

 伯爵も、同じ水差しから注いだ盃を飲み干す。

 その目はやや遠い空を、見据えてった。

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