武王祭 騒動 33 帝国領事館 4
あたしたちは、最後まで。
本当に最後まで、秘密結社アメジストが何を企んでたのかを知らないでいた。
港町クリシュナムで、ひと騒動あった“妖精の粉”事件。
この痕跡が、誅殺された第一王子から発見されたことにより、暗殺された王から遠ざけられたようになったし。これらの話が、ひと月も後になってから女神正教会に知らされたことに疑問とか、疑惑めいたものが渦巻いてた。
「王国の背骨はガタガタになったよ...紅君」
正教会・枢機卿がぽつりと零す。
別の大陸にある総本山から、委任されている権限をもってしても。
正教会はラグナル聖国の影響力にギリギリ届かない。
武力を背景にすれば――戦争になりかねないけど。
なんとかの背比べ程度だろう。
王国の国教に収まったものの、屋台骨が骨抜きにされては...
「内戦は、回避できませんか?」
後輩の“紅の修道女”が膝をついてた。
首を垂らし、
「こちらが調査した“妖精の粉”が、第一王子の別宅より見つかって以来...国王を暗殺し、衛兵により誅殺されたあれが真に、王子であったかの確証もない。また、腹を痛めて産んだであろう、王妃殿下も王と息子の死を知った後に自害してしまっては、もう」
打つ手なし。
そんな状態に。
恒久的に姿を変えられる粉ではないことは、調査結果とともに、王宮抱えの錬金術からも似た証言を得ていたが、近衛騎士団がそれを認めていない。身柄の確保を優先された、第二王子でさえ今は、どの塔に幽閉されているかも分からずじまいだった。
今、王宮近衛騎士団は、ほとんど独断にちかい形で王族の監視をしていたのだ。
いや、もうちょっと背景に灯りを照らしてみよう。
近衛騎士団の後ろには、王妃の父君。
外戚のナジク伯爵の息がかかっていた。
このコンバートル王国陸軍元帥という、その人が控えているから騎士団も、王族に対する締め付けに強く出ているのだと考えられる。
◆
その頃のあたしは。
ドーセット帝国領事館の客間ひとつにて。
起毛が高くふっわふわな絨毯で、涎垂らして転寝してたのである。
ドーセットは、羊毛が盛んで。
良質な毛織物生地は“国の宝”とまで、いわれるほど特産品だった。
その生地で使われる羊毛を、あえて絨毯にするのだから。
手触りは柔らかく、低反発な弾力。
そして、お日様のような匂いがする――吸い込むと、吸着したごみを気管で詰まらせるので、やや注意が必要である。が、ついついやっちゃうんだよね。
ミロムも、あたしの傍で寝てる。
ハウスキーパーが戻ってくると、
「ちょっとお客様!!!」
「いいよ、寝かせてあげなさい」
ヒルダの生暖かい目が二人を射抜く。
あたしらがパンツ丸出し、臍のごまを掘りながら寝ている様に...
頭を抱えてた。
いや、もう呆れてるんだな、これ。
「しかし、ダニが」
「いいよ、噛まれてしまえ...ってな気持ちで」
「はあ」
領事館にあるのはヒルダの好意だ。
彼女の胸先で、事態も変わるし。
追い出されもする。
ま、今のところ彼女にその気はないようだけど。




