武王祭 騒動 32 帝国領事館 3
武王祭が不穏な空気で中止されると、
王都内で開かれてたマーケットの賑やかさも、軍靴の音でかき消されてしまった。
ま、国王は憤死。
第一王子は錯乱の末に、衛兵によって誅殺されて。
第二王子は、その近衛兵に連れさられ、王城のどこかに隠れてしまった。
――そのほかで言えば、第三王子の件だろう。
まさか未成年の少年が暗殺されるなんて、誰が思うだろうかって......(暗殺した)張本人と対峙するように、あたしは彼女のプライベート空間にて正座してるんですが。
あの、これ?
何の拷問でしょうか???
◆
秘密結社“アメジスト”は集会中である。
円形闘技会場でもお目見えしてた、例の賢者も彼らの中にあって。
青年の脇に立っている。
「王都の潜伏工作員と、こう一堂に会するとは...なかなかないものだが。ここで手入れでもあったら、一網打尽ではないのか?」
ボウズ?って、賢者は耳打ちしてくる。
その言葉に眉根も動かさずに済ましているのが、彼の貫禄だろう。
物怖じしない。
たとえ、自分よりも身分や年齢が高い相手であろうとも、だ。
「ふむ、わりと詰まらんヤツじゃな?」
賢者は囁くのを止めた。
マグロほど面白いことはない。
壇上に法衣めいた装いの人物が上がる。
王都にある旧い教会のものだ。
新興宗教にその座を奪われる前までは、国教として成立してた。
その司教なる人物も、アメジストに頭を垂れたことになる。
「本日は、団主さまより新しい御言葉が、もたらされた!!!」
王都の混乱は表面上、数日のうちに終焉するという。
予言めいた言葉なのだけども。
その言葉が外れたことはない。
「――この大陸の要石は、すでに取り除かれている。故に、渇望せよ! 欲望のままに行動し、民に不安を芽吹かせ、煽り、導くがよい!!! この世界に我らという“使徒”が遣わされたということを、民に為政者に、示すのであ~る!!!!!!!!!」
“月女神の使徒”教会ってのをやってる司教だから、ほとんど信者向けの言葉になってた。
まあ、アメジストの団主の言葉も、司教のソレと付かず離れずといった雰囲気があるから、どちらも胡散臭さがある。
その胡散臭さの濃度が図れるんだとしたら、団主のは闇だ。
少なくとも青年には、司教の方が胡散臭い感じがしてた。
これが団主のカリスマなのだろう。
集会場を賢者とともに立ち去っていた。
ま、本音を言えば聞き飽きている――狂信者なんてどこも似てるなあ、って感じだろう。
「ふむふむ...よくよく気が合うじゃないか?!」
「さてね、ボクは茶番だと思ったから元のレールに戻るだけです... それに賢者は、耳障りに感じたってそんな、トコじゃないですか?」
老人の声なき笑い。
口の奥から、ギザギザの歯が見える。
「そうさなあ、遠からず...かな」
耳の穴をほじりながら、
「団主が言われるまでもなく、外見的にもこの国は正気を取り戻す。武装国家を2世紀近く目指して、多くの魔法剣士たちを輩出してきたからな、手綱を握れる者を欠いたってのは大きい。一時的には、沈静化したように見えて、な」
あとは堰を切ったように、こぼれる水を眺めるだけに終わる。
アメジストにとっては、子飼いの傭兵団がこの混乱に乗じて乗り出してくる。
当然、現地採用の潜入工作員たちは、使い捨てであるから...内戦になれば、片端から口封じの嵐になるだろう。
混乱した国...コンバートル。
大陸では、未曾有の大戦争へと流されるだろう。
「今度はどこの国へ行くんだい?」
賢者が振り返る。
マディヤはやや驚いたそぶりを見せ、
「...ったく、人間らしい動きを見せる」
「そうですねえ、ラグナル聖国になると思いますね」
後ろ髪を指先ですく。
団主からは、追加の命が下っているわけじゃない。
今回のは、あの翁に“薬”を届けることだけだった。
「そうかい。じゃあ、聖国ではお前さん、本来の仕事ができると...いいんだがな。おっと、俺のトコに寄ることがあれば、声は掛けてくれ!」
なんて、やり取りを済ませると。
賢者は集会場の外にあった戦士たちとともに、メガ・ラニア公国へと戻っていった。
青年の帰りを待つのは、ふたり。
「早かった...ですね?」
燕尾服の少女が近寄る。
頭を撫でられ、
「ここにはもう、用がないらしい」
他人事だけど。
そういうことだ。




