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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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武王祭 騒動 32 帝国領事館 3

 武王祭が不穏な空気で中止されると、

 王都内で開かれてたマーケットの賑やかさも、軍靴の音でかき消されてしまった。

 ま、国王は憤死。

 第一王子は錯乱の末に、衛兵によって誅殺されて。

 第二王子は、その近衛兵に連れさられ、王城のどこかに隠れてしまった。

 ――そのほかで言えば、第三王子の件だろう。


 まさか未成年の少年が暗殺されるなんて、誰が思うだろうかって......(暗殺した)張本人と対峙するように、あたしは彼女のプライベート空間にて正座してるんですが。


 あの、これ?

 何の拷問でしょうか???



 秘密結社“アメジスト”は集会中である。

 円形闘技会場でもお目見えしてた、例の()()も彼らの中にあって。

 青年の脇に立っている。

「王都の潜伏工作員と、こう一堂に会するとは...()()()()ないものだが。ここで手入れでもあったら、一網打尽ではないのか?」

 ボウズ?って、賢者は耳打ちしてくる。

 その言葉に眉根も動かさずに済ましているのが、彼の貫禄だろう。

 物怖じしない。

 たとえ、自分よりも身分や年齢が高い相手であろうとも、だ。

「ふむ、わりと詰まらんヤツじゃな?」

 賢者は囁くのを止めた。

 マグロほど面白いことはない。



 壇上に法衣めいた装いの人物が上がる。

 王都にある旧い教会のものだ。

 新興宗教にその座を奪われる前までは、国教として成立してた。

 その司教なる人物も、アメジストに頭を垂れたことになる。

「本日は、団主さまより新しい御言葉が、もたらされた!!!」

 王都の混乱は表面上、数日のうちに終焉するという。

 予言めいた言葉なのだけども。

 その言葉よげんが外れたことはない。

「――この大陸の要石は、すでに取り除かれている。故に、渇望せよ! 欲望のままに行動し、民に不安を芽吹かせ、煽り、導くがよい!!! この世界に我らという“使徒”が遣わされたということを、民に為政者に、示すのであ~る!!!!!!!!!」

 “月女神の使徒”教会ってのをやってる司教だから、ほとんど信者向けの言葉になってた。

 まあ、アメジストの団主の()()も、司教のソレと付かず離れずといった雰囲気があるから、どちらも胡散臭さがある。

 その胡散臭さの濃度が図れるんだとしたら、団主のは闇だ。

 少なくとも青年マディヤには、司教の方が胡散臭い感じがしてた。

 これが団主のカリスマなのだろう。


 集会場を賢者とともに立ち去っていた。

 ま、本音を言えば聞き飽きている――狂信者なんてどこも似てるなあ、って感じだろう。

「ふむふむ...よくよく気が合うじゃないか?!」


「さてね、ボクは茶番だと思ったから元のレールに戻るだけです... それに賢者あなたは、耳障りに感じたってそんな、トコじゃないですか?」

 老人の声なき笑い。

 口の奥から、ギザギザの歯が見える。

「そうさなあ、遠からず...かな」

 耳の穴をほじりながら、

「団主が言われるまでもなく、外見的にもこの国は正気を取り戻す。武装国家を2世紀近く目指して、多くの魔法剣士たちを輩出してきたからな、手綱を握れる者を欠いたってのは大きい。一時的には、沈静化したように見えて、な」

 あとは堰を切ったように、こぼれる水を眺めるだけに終わる。

 アメジストにとっては、子飼いの傭兵団がこの混乱に乗じて乗り出してくる。

 当然、現地採用の潜入工作員たちは、使い捨てであるから...内戦になれば、片端から口封じの嵐になるだろう。


 混乱した国...コンバートル。

 大陸では、未曾有の大戦争へと流されるだろう。

「今度はどこの国へ行くんだい?」

 賢者が振り返る。

 マディヤはやや驚いたそぶりを見せ、

「...ったく、人間ひとらしい動きを見せる」


「そうですねえ、ラグナル聖国になると思いますね」

 後ろ髪を指先ですく。

 団主からは、追加の命が下っているわけじゃない。

 今回のは、あの()に“薬”を届けることだけだった。

「そうかい。じゃあ、聖国ではお前さん、本来の仕事ができると...いいんだがな。おっと、俺のトコに寄ることがあれば、声は掛けてくれ!」

 なんて、やり取りを済ませると。

 賢者は集会場の外にあった戦士たちとともに、メガ・ラニア公国へと戻っていった。

 青年の帰りを待つのは、ふたり。

「早かった...ですね?」

 燕尾服の少女が近寄る。

 頭を撫でられ、

「ここにはもう、用がないらしい」

 他人事だけど。

 そういうことだ。

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