武王祭 騒動 31 帝国領事館 2
「そっちかあ、...何から話せばいいかなあ、」
ヒルダの手で茶葉を厳選し。
彼女の沸かした湯で、茶葉を蒸して、何度か適温と色、味が馴染むように紅茶を淹れる。
卓上へ先にソーサーが置かれてから、
カップが、一人ずつ並べられていく。
これらの動作が余りにも流暢すぎるので、
そう、あたしらは目を奪われてしまっていたのだ。
こいつ、出来る!!!!?
みたいな雰囲気に。
「まった、待った! こんな女中でも出来そうなことで感心するなよ、愚民ども!!」
あ、まあ。
確かに。
「――私が今から話すこと、口にすることは他言無用で。セルコットも、さ...そのまな板にしっかり納めといてくれよ。これが漏れると父上や母上はまあ、いいんだけど。上の兄6人が血相変えて卒倒するから、さ。マジで他言無用に!」
「いや、その念の押し方でなんとなく分かってきた」
理解が早いといいものだ。
すごいぞ、ミロム!
「お前も察しろ!」
ミロムさんからグーでこめかみをグリグリされてます。
っ、痛い......
「ドーセット帝国の姫さんだ!」
ストレートな物言い。
飾らないってステキ。
「なんか言い方があるだろ? こう、帝国の末娘~ぇとか、あるいは〇〇公主とか?」
帝国の王女に冠する位の方は、まるっきり分からないけど。
養女とか、なんかそんな区別が。
「いや、別にない。父上が市井で気に入った娘がいれば、平民であろうとも養女にする。ま、まあ、それでも養女たち、実子でない子には継承権はないんだけども。強いて言えば、それが区分なのだろう」
ってにもしれっと言えるのが、ヒルダの性格である。
裏を作っても、表になる正直者。
だから、剣の師匠は彼女に“暗殺者”は向かないと判断した。
◇
でも、彼女は暗殺者になった。
年の離れた兄弟子を、暗殺されたからだが。
まあ、動機としては少し弱い。
ただ、温室育ちの王女が、剣を握る分には十分な動機だったかもしれなかった。
「――先に推論を解説したけど。実のところこの国の物件は、混乱を招いてでも獲得したいという類の埋蔵量ではないと、帝国の地質学者たちは結論付けている。もって20年の鉱脈だと...」
「なぜ、」
銀鉱山から出土する他の鉱物といえば大まかに、石英が多い。
この石英の出土量で鉱脈の寿命が大方、分かるとも言われてた......とはいえ、魔法の技が介入して鉱石の声なるもので判明したものだという。
科学的じゃなくて、非科学的な現象に左右されてる。
だからきっかり20年じゃなく、
20年ぐらいには~
って曖昧な期限と思っていい。
「でも、20年も掘れれば」
誰もが思う。
掘りつくせるなら。
ヒルダは首を振り、後輩を見る。
注がれたカップは空の模様。
「おしっこ行きたくなっても、」
「いい飲みっぷりだが、高価な茶葉なんだから香りを楽しんでくれると、ありがたい」
ヒルダの(初)給料で買ったブツだったらしい。
「仮に期限いっぱいに掘れる条件があっても、そこまで横穴、縦穴を張り巡らした山に頂上からの土砂を支える力は残っているのか? 私は専門家じゃないけど、否と思っている。もはやシロアリに食い荒らされた家さえも想像してしまう。10年手前で掘るのも止めるし、産出量だって落ちているだろう」
そう、開発の見返りがない。
じゃあ、この陰謀って何?!ってことになる。
◆
例の三人組は組織が用意した宿屋にある。
とは言っても、彼らの協力者の...と言い換えた方が分かり易いだろう。
「結局、いいところは見逃しちゃったと思っていいのかな?」
給仕しながら、つまみ食い。
用意した茶菓子がちょっと回らない。
3人いるのに5人分?
これは、
あれだ...食っていい...




