武王祭 騒動 30 帝国領事館 1
場所は移された。
あたし、ミロム、後輩の3人は武装を無理に回収されてしまった。
他国の領土に入るのだから、当然といえば当然。
領事館とは、そういうものである。
えっと、
「ミロムさんや、本当に一緒に来て大丈夫だったんかな?」
ドーセット帝国と、リーズ王国に確執はない。
表も裏でも、外交的にも軍事的にも“未だ”という段階で、確執はない。
しいて言うと...
「人類共闘戦線だっけか、大陸の東西を二分する巨大国家同士の軍事同盟と“魔神包囲網”の加盟国同士、べつに何てことはないわ!!」
ミロムさんは、瞼を閉じ腰に手を当てて...
吐き捨てるように答えてる。
まあ、答えにはなってないんだけどね。
と、して。
「何ですか、せ、せん...い、いえ、姐さま」
普段であれば自信に満ち溢れてる、後輩の奴が挙動不審である。
市中であれば、教会=女神正教会がなんとかしてくれるのだという。
あの場では言えなかったらしいんだけど。
領事館に来るまえに、彼女としては“あたし”を教会に連れて戻りたかったらしい。
いやあ、そんなこととは知らず。
めんご、めんご。
「――何から話す?」
歯切れがいい。
領事館には治外法権が認められている。
仮にコンバートル王国の国王禁軍なるものが、領事館に踏み込んできた場合、これを武力で返り討ちにしても文句はない。いや、言わせないのだ。
そういう力が、ここにはある。
「なんで、王子の首を落とした!!!」
単刀直入に勝負した。
打ち返されるか、はぐらかされてファールチップにされるか...これは、ヒルダとあたしの勝負だ。
が、装備一式を外して身軽になった彼女は、
髪留めを取って――飴色の琥珀な髪に櫛掛けし始めた。
「そういう仕事だったからです」
「よせ、それ以上は野暮だ」
ミロムがあたしを制止した。
暗殺者に対象の背景は教えない――でも。
「その、その背景とは彼が未成年だからですか?!!!」
さすが教会の諜報員!
あたしは、あたしの尻に顔を埋めてる後輩に“ナイス”って賛辞を贈ろうとして、断念した。
尻に隠れてなければ。
◇
「いや、別に未成年とか、そういうのじゃない。これは私なりの私見で、推論だ――」
前置き。
ヒルダが語るそれは、何者かの陰謀のようなものだった。
コンバートル王国は、武力に傾いてる未開拓の国家だという。
すでにいくつかの利権が売り飛ばされてた、けども。
これだけはっていう、肝みたいな“銀鉱山”だけは、国の宝ゆえに手垢がついていなかった。
おそらくは...
「そう、おそらくは国がこけるような大惨事にでもなれば」
「誰かが、どさくさ紛れに?!」
ありえなくもない。
後継者を欠いた国は、崩壊する。
第二王子には、国難に対する危機的処理が皆無だと、国民すべてが知ってしまった。
いや、有力貴族である大臣たちも、それは一緒である。
『国王は偽物である!!』
と、訴えながら誅殺された、第一王子が一番まともでも。
その彼もいない。
そして、御しやすかった第三王子も。
「それじゃあ、相手に口実を与えたんじゃ?」
切り取りごめん...みたいな。
「いや、政治的空白は生まれたけども、為政者すべてが消えたわけじゃないだろう。そのための親戚筋のはずだ。国王の兄弟は、地方行政官として公領なる(条件つき)自治権を得て、国の方々に散っているわけだけども...例の“銀鉱山”は国王の姉君が守っていたはずだ」
ヒルダ並みにそれとなく調べてた。
師匠からは、情が移るから対象者はものとして見よ、と叩き込まれてきた。
しかし、彼女の身分がそうはさせなかった。
「で、第13継承権って?」




