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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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武王祭 騒動 29 あたしとヒルダと... 4

 事態は急転直下のジェットコースター。

 取り囲まれた兵士がさながら、海をふたつに割いたという()()よろしく――ヒルダが二歩ほど歩みでると、兵士も三歩半か、それ以上下がっているように見える。

 遠巻きに観察してた、三人組も不思議そうにしてた。

「帝国の治安部隊ってのは、他国の兵士をも退き下がらせる、印籠か何かを持ってるもんなのでしょうか?」

 学がないので、

 と、燕尾服の少女は戸惑う。


 青年の方も、噂程度には暗殺皇女というのがいるとか。

 その程度でしか知らない。

 帝国式一刀流という化け物じみた剣の技を使うものがいる。

 そうした情報は故意に、流されたものだが。

 彼らの正体については、掴みどころがない。



 ヒルダさんの堂々とした歩みに、あたしら係累もなんとなくオドオドと、ついていくしかなく。

 いったい何の冗談なのかってな具合に。

「不信感いっぱいでしょうが、この場は、私に任せてください。悪いようにはしません、この状況から抜け出せば、本筋の外交官たちが段取りをつけてくれるはずですから」

 ――を、小声で告げてきた。


 ヒルダの背中しか見てないけど。

 その背は、いつもの丸まった猫背とはとても想像のできない“ぴしっと”延ばされており。

 なんて言えばいいのか、これが彼女なのだ!

 とか、そう思われる立ち振る舞いだった。



 確かに彼女の言葉通りに。

 衛兵の囲いをたた、歩いて抜けた先に――別の異様な雰囲気の黒服さんたちが待っていた。

「さあ、ここでお別れになりますが」


「ほ、へ?」

 気の抜けた声。

 おっとここにきて、仲間外れですか?

「な、なんです...か?!」

 先ほどまでに物怖じの一つも見せなかった、ヒルダさんが仰け反っている。

 ま、あたしが覗き込んでいるからなんだけど。

 髪をくしゃくしゃに搔き乱して、

「領事館までついてきたいのですか?」


「あ、そんな便利なのがあるなら、是非!!!!!」

 厚かましいにもほどがある、という言葉がある。

 今はそれが、あたしの行動であろう。

 リーズ王国の総領事館はこの国にはない。

 いや、もっと言えば、だ。


 この大陸に通商条約にもにた、国交が開かれた国が殆どないと言っていい。

 別にリーズ王国が、鎖国政策を敷いているわけじゃなくて、かの国にとって有益と思しき朋友がいないってだけなのだ。

 民間交流はあるんだけど、ね。

 その民間交流、文化交流、渡航先で国民に不利益が生じた場合...

 基本は不介入。

 でも、ミロムさんみたいな要人なら迷わず、精強なる王国海兵隊が送り込まれる。

 目撃者、関わった者すべてを排除するっていう処理が発生し。

 結果、あたしと後輩は王都のはずれで、死体になっているだろう。


「何か、事情があるようですし。...帝国領事館まで来られますか?」

 その言葉を出させてしまった。

 黒服の方々は外交官付きの、SPといったところなのだろう。

 ヒルダの決断に、やや不服そうな雰囲気を一瞬だけみせた。

 が、サングラスの奥にある目から、プロ意識なる眼光が見えた気がする。

 保護対象者が増えた的なものだろう。



 さて、協会=魔法詠唱者協会メイジ・アソシエーションの、コンバートル王国支局では蜂の巣をつついたような、大騒ぎになってた。理由は至極簡単なもので、先ずはあと10年は安泰だと思われた、国王の治世とその終焉、第一王子の王殺しは衝撃でしかない。

 また、なすすべなく呆けてた、第二皇子の危機管理能力と、処理能力に疑問の声――これは、まあ...身内同士でありえない殺し合いを、闘技場の外で目撃すれば。

 そういう事にもなるだろうって、同情しか湧かないものだ。


 で、次。

 協会かれらには未だ、未確認情報になっているんだけど。

 ドーセット帝国・治安部隊と思しき者により、第三王子が暗殺されたことが、混乱の最大の渦中といえるだろう。


 うん、いえるだろう。

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