武王祭 騒動 28 あたしとヒルダと... 3
遠巻きに眺めてた、意識の薄らぐ翁の顔に絶望が現れる。
これで戦争が回避されると――恐らくは、自分の中で解決を見てた瞬間だったのだろう。
そして、安心して逝けると。
ただ、それもつかぬ間の夢で終わる。
第一と、第二の王子たちには権力者という、特別な者たちの手垢にまみれている。
とてもクリーンじゃないし、王家の権謀術策にも積極的に関与している節があった。
いや、精通しているだろう。
秘密結社たちからの情報によって、そう、認識している。
だから、敢えて...
翁は、余命のすべてを投じて、
このような暴挙に出たのだ。
崩れる仮初の姿と、
薄れゆく意識の中で――第一王子も、また。
「天誅!!」
って他の誰かに、殺害されてた。
いや、あれは「王殺しに成敗を...」だった、か。
◇
燕尾服姿の少女がころころと笑う。
ヒルダの行動にだ。
「帝国の治安部隊か...手際が良すぎて読み易い。第三王子が手元にあれば、これを御せばよく...無くとも計画に支障きたさない、団主は何処まで先を読んでいるんでしょうねえ~」
マディヤもほくそ笑む。
3人は、この会場を見渡せる位置にあって――
成り行きに任せたままにしている。
「どうして積極的に参加しない」
...は、和服のアグラからのもの。
「介入する必要がない。いや、これは正確な返答じゃないな、ぶっちゃけると...介入する必要性がないくらい、勝手に進行している。俺たちは、見ているだけでいい。手を貸せるときは、ま、今後...そういう場面に立ち会えるかは不明だけども、な」
最高指導者の描いた餅の出来栄えがいい。
この絵に何を添えられようか。
まあ、そんなとこだろう。
◆
矢を射かけてきたのは、衛兵様です。
ま、まってちょっと混乱してるけど、ちょっと待って。
「セルコット!! 早く気持ちを着切り替えな!!!」
ミロムのと比べると、やや筋肉質だってのはわかるけど。
うん、いい匂いがする。
「私を吸ってやがる、こいつ...」
ヒルダのご機嫌を害したようで、
あたしはミロムの方へ丁重に返された。
うーん、なんでかなあ。
「姐さま、浮気はだめです」
後輩があたしの腕にとりつく。
ヒルダから突き返されたんだから、次の主導権争いに、彼女たちが名乗りを上げたんだけど。
ま、後輩は...ちょっと。
気持ちよくさせてくれるんだけど。
一方的に潮吹くの、あたしなんだわ。
「抵抗はするな! キサマ達には聞きたいことがあるからな!!!」
とうとう、
円形闘技場の通路から出てきた、兵士たちに囲まれたところです。
「こ、これは誤解が」
「王子を斬ったのはお前たちであろう?!」
目撃者も多数ある。
運んできたあたしも、間違いなく襲撃者の一味のように思われてる。
だって、ラグナル法国の最高指導者を、暗殺したんじゃないかって思われてるのも、あたしだし。
こりゃ、いいところ何もないようですなあ。
「まてまて、私と以下3人には外交官特権がある!!」
いつから?って、つぶやいたのは内緒。
ミロムの咳払いと、後輩の平手であたしは黙らされる。
犬歯で、口の中切ったみたいだけど。
そこは泣き寝入りするわ。
「外交官だと?!」
「ドーセット帝国の外務部特使、ヒルダ・アインバックス。これでも、第13継承権保持者である!!! 故あって、士分に扮して会場にあったが、これは私の趣味である。師であるホーシャム・ロムジーからも、道中の苦労は買ってでも...と、言付かっている故」
ほう、継承権か。
ふむ、それはいったいどこの継承権で?
「うっさいなあ~ 今、ヒルダさんが兵士さんの“こっち来い”って要求を突き放してるトコじゃないですかあ!!」
後輩があたしを邪険にする。
あ、ミロムからもにらまれた。
「...っ」
ヒルダも舌打ちした?




