武王祭 騒動 27 あたしとヒルダと... 2
ヒルダも行き先に察しが付くと、
跳躍で...あたしの目の前に先回りしてきた。
彼女の背後にミロムと後輩、その前方には王子を抱えたあたしが居る。
「その荷物を置けば見逃す」
って観客席の中で言えば、
まあ、当然、パニックが起きる。
競技者と客っていう関係ならば、威勢のいい罵声も浴びせられるけど。
競技者が自分たちと同じ場所に立つとなると、話は別になる。
手前勝手もいいんだけど...
客は真っ先に逃げて行って、3:1の構図。
いや、
1:1:2の構図だろうか。
「殺しはダメだ!」
――は届かない。
じゃあ、どうする。
◇
「この少年が...何を」
「したかって? いや...何もだ」
暗殺者の流儀からすると、対象者の背景を知る必要はない。
逆に知ってしまうと、その後の影響まで考えを巡らしてしまうからだけど。
それは、あたしにとっても...
たぶん同じ。
あたしも、今がどんだけ最悪かは分かってる。
持ってきちゃった時点でだ。
でも、
でもねえ。
知人が暗殺使用している現場に居合わせたら...
やっぱ、こういう行動に出ると思うんだ。
「で、尻を触ってる男を担いでくるのか?」
ああ、うん。
さっきからもぞもぞ動いてらっしゃるのは、一目瞭然です。
あたしの肩に担がれてる癖に、あたしの尻を撫でまわしてる――そんな、プレイじゃないですよって言いたいんだけど。
「これはこれ、触った分だけ“金は貰うから”」
身体の振動と、耳からで届いた少年の手が止まった。
いささか静かになった...
と、思ったら。
あたしの尻の肉を掴みやがったよ、コイツ!!!
思わず、放り投げてた。
あ、やべ?!
「あだ!!」
腰と背を打った少年は、
「こら、雑種!! 尖った耳をしているからと言って、王族の者を投げ捨てるとは如何なる領分か!!!」
だって...さんざん他人の尻を撫でまわしたのも、王族だからチャラにする気かって、の。
「雑種は余計だっての! こっちは由緒正しきエルフ族の娘だ!!! ま、4分の1くらいは...ダークエルフ族の族長さまってのが...入ってるらしいけど。2~300年前のどっから紛れ込んできたか分からない、ダークエルフなんて知らないけど、さ。あたしの下着と、尻揉んで、掴んで、穴に指入れようとした分、その代金はちゃんと貰うからね!!」
放り投げた少年が持ってるようには、見えないけど。
ま、衛兵とかに身柄を預ければ...慰謝料くらいは、払ってくれるでしょう。
そんな甘い考えを...
抱いていた時が、
あたしにも...ありましたよ。
そんな、幻想的な。
ヒルダは放り投げた、少年の首を刎ねてた。
ま、まあ、あっさりと...。
「え?!!!!」
あたしは、慰謝料を取りっぱぐれる事に成る。
いや、いやいや...
そうじゃない。
そうじゃない、そうじゃない。
「ま、今、脳を駆け巡ってるその電気信号は正しい反応だ。ここまで、いやさ、王族警護隊の目を盗んで、ここまで運んできたのは少年を守るため...いや、暗殺者の私に人を殺めさせない為、だっけか? ふふふ、だけどなあ...結果的には私と、あんたが共謀して第三王子の身柄を制御しやすいテリトリーに持ってきた、まあ...誰もが思うだろう!」
で、ぐいっと視界が揺らぐ。
いや、腕を引かれたんだわ。
ヒルダに。
ヒルダがあたしを庇うように彼女の傍へ引き込んだ。
元いたところへ矢が走る。
「まったくいつまで惚けてる?!!」
うぶ...
ヒルダの胸に飛び込むとは思っても見ませんでした。




