港街の悪い噂 4
「もう姐さまったら、白目向いちゃって...可愛い」
かわいいじゃない!
衝撃耐性が効かないのは、この後輩の時だけだ。
これを師匠が同じように飛び込んで来たら、カウンタースキルが発動し――師匠のまる焼けができる。
冗談ではなく、気を赦しているとアサシン君だって懐に飛び込んで来たら、弾け散る可能性も、ある。
それがあたしの自己防衛システム。
もう、そう呼ぶしかないほどの鉄壁の防御で...あたしの無意識が組み上げた、もの。
「えっと、あなたは?」
後輩にアサシン君が問うている。
手足として動くチンピラは、あたしにたっぷりの抱擁を捧げてる、後輩の近くに寄ってこない。
なるほどそういう教育を施したと。
おっかねえ子だなあ。
「申し遅れましたが、セルコットさんの友人トッド・ウィックと」
「あ、うん...知ってるよ、トッドさん」
ぐったりしてる人形でも抱えてるような、後輩の笑顔が眩しい。
いや、そろそろ起して欲しいなあ~
「...」
アサシン君が黙ってる。
黙ってみる他なく、
思い出したように...
「あ、ごめん。ごめん、私はセルコット先輩のマスコット! 紅の修道女です」
通り名じゃねえか!!
ってか、マスコットでもねえ!
◇◆◇◆◇◆◇◆
場面は、紅の修道女が拠点にしている宿へと転ずる。
再開発区域のすぐ近くにあって、一応、まともに機能している冒険宿だという。
「冒険宿ってのは基本、素泊まりのが多いから余所者を見極めるならここ...名の通った街の場合、相場は1人から2人で利用する上階の部屋は金貨1枚。3人以上5人(或いは6人)部屋だと銀貨50枚に少し手数料が乗り、10人以上の雑魚部屋でも銀貨10枚以上は...ぼったくられる」
ああ、あたしかい?
あたしは未だ、気絶中でマスコットだと言って他人の話を聞かない、後輩が抱き枕にしてやがる。
正直ね、アサシン君からガツンとこいつを殴って欲しいと思う。
「素泊まりのここは?」
革袋の口を広げ掛け、
後輩はその紐を縛り直すよう解いた。
「ここは隠れ蓑だから、同業者から盗ったら姐さんに私が簀巻きにされる。...まあ、それもされてみたいところだけど、未だ仕事が残ってるからね」
「と、言うと...“妖精の粉”かな?」
港街にはある種の薬物が出回っているという。
錬金術で精製される状態異常からの回復薬“妖精の粉”と、同名の別の薬物だという。
こちらは“フェアリー・ダスト”というから“妖精の欠片”みたいな呼び名が似合いそうだ。
効果、効能としては一時的な身体強化、知覚の急激な発達を促し、異常なまでの超回復力が備わるとされる。
闇の地下闘技場で使われていると――紅の修道女は告げた。
「そこまで調べましたか」
薄暗い噂はあった。
港街だから物や人が多く行きかう。
そこには利権も生まれるし、聖域という名の特権も、だ。
今のところ王国もグルという雰囲気はない。
地方領主による一存という線が濃厚といった雰囲気だった。
「これらはまだ、うわべだけ。教会に黙認してほしいと教区長を、抱き込むところまでは掴んだんだけどね。仕組みは未だ闇の中で、領主の最良にしては金貨の詰まった鞄三つはちょっと多すぎる感じがするんだわ」
後輩は、鞄の中にあった金貨を投げて寄越す。
それを掴んだアサシン君は、迷わず噛んでいた。
毒耐性のある暗殺者しかできない芸当だ。
「硬い?!」
「そう、金貨の殆どは金箔か、或いは溶けた金でコーティングした偽物。教会が知ればタダじゃ済まされないのを知らないとは思えないし。仮に金貨と同じ目方に合わせて運ばされてただけと考えると...」
「黒幕の存在も見え隠れしますね」
尻尾がつかめないけどね、と後輩は茶目っ気をみせる。
が、どうでもいい。
あたしを起せ!! おっぱい揉まれてるぅ~