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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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武王祭 騒動 25 ヒルダの試合 6

 ヒルダが振り下ろした剛剣を、あたしの一撃が吹き飛ばした。

 観客が蒸発しかねない、超位級に匹敵する、爆裂魔法のぶつかり合い見たいな――とにかく、ヒルダの斬撃を相殺しつつ、互いの剣が溶けるような熱線で天空そらを焦がした。

「ちょっと何のつもり?」

 目が座ってて怖い。

 ヒルダの顔を直視できない。

 左端に視線を流し...

「それ明日? それとも昨日かしら?」

 女言葉とは珍しい。

 ヒルダさん...あなたの手、燃えてますが?

「あちちち」

 溶けた大剣を放り投げてた。

 彼女が狙ったのは、第三王子だった。

 これは彼女が請け負った、暗殺しごとだ。


 恐らくは、だが。

「炎耐性が高いっていいね...」

 え?

「あんたも服ごと燃えてるけど、痛みとか...熱さ、何も無いの???」

 不思議がられますが。

 熱いとか痛いとか...普通にあります。

 ただ、考え込むと、ねえ。

 忘れちゃうんです。

「ま、いいけど。あんたの股下で、股間にテント張ってるガキには、さ...刺激が強すぎるんじゃないかな?」

 貴賓席から、滑り落ちた少年の真上に、あたしが立つ。

 今、短いスカートの中身がモロ見えだし。

 燃えて見えなくてもいい、スポブラまで晒してた。

「なあ!!!」

 うっわ、マジ、最悪。



 人を踏むと、なんと言いましょう。

「悦に入るよね、うん...分かる」

 対岸のヒルダさんは、自身の腰に提げられた獲物へ手を置く。

 羽織ってるだけのマント裾を、翻したから――柄の長さで()()モノ的にヤバさがある。ああ、それショートソードですよね?

 あたしは第三王子を踏みつけ、そのまま間断なくヒルダも蹴り飛ばしてた。

 ただ、彼女に“間合い”はない。

 強いてあるのだとすれば、それは“射程”という概念だけ。



 翁はよろけながら、膝を突く。

 心意の力でよく似た別の誰かを演じてるんだけど。

 その力も、傷を負わされては持続もしない――あんたは、大叔父殿!!――なんて、第一王子から挙げられる。ただ、貴賓室の右端にある第二王子からは依然として、父王()()()にしか見えない。

 それも計画のうちだった。

 継承させたくない第一王子が己を刺す、或いは斬るという行動は想定済みだった。

 王を間近で見る者は、例えば王妃。

 或いは侍女、または侍従長などの側近たち。


 邪魔されぬよう、秘密結社アメジストの策略は、幽閉された王妃以外の排除にまで及んでいる。

 または、不意に訪れるであろう愛人や側妾などにも、だ。

「ふふ、王子よ...錯乱も甚だしいな」

 翁の声は()の声に。

 苦痛に歪む顔も、刺し貫かれた腹から臓物が蠢きながら飛び出しているのも、王に見える。

 王子がいくら、

『アレは父王ではない、大叔父の何某だ!』

 と、叫んだところで誰も信じてくれないのだ。

 事実は今、王子が錯乱して父を刺したという罪のみだ。


 翁は虚ろな目で、周囲を見る。

 例の三人組に軽い会釈を残し、

「衛兵よ、王子を捕らえよ...いや、決して殺すな! 生かして捕らえるのだ!!!」

 と、告げてぶっ倒れた。

 擬音的に――ぐしゃっと入るような雰囲気だろうか。




 ラグナル聖国が、首脳会談で話し合いたかった議題は、この数年で不可解な事件・事故の報告についてだ。確かに、他の大陸から来たという新興の()()()()()や、魔法使いの地位や知的財産を守るという、奇特な組織の()()()()()()()なるものも十分怪しかった。

 が、法王猊下の危惧してたのは、もっと別のもの。

 いわゆる、秘密結社アメジストの存在。


 断片的な情報で、コンバートル王国が狙われているという話がしたかった。

 そう、彼らは王国が...武力行使するなんてのは、ハナから議題にするつもりはなかったのだ。

 翁はやり切った表情で絶命した。

「偽王さんもやり切ったようだな」

 和装の男は扇で目端を隠し。

 大往生の男の視線を切る。

「自分がしたことが正義だと思って死ねたんだ、本望だろう?」

 眼下の茶番劇は、ほくそ笑むものじゃない。

 追い詰められる王子と、彼を護る騎士らが対峙している。

 これだけでも国は二分した。

「担ぐ、第三王子おうじさまはどこ?」

 って、燕尾服の少女が、キョロキョロと頭を動かしてた。

 さあってのが二人から。

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