武王祭 騒動 24 ヒルダの試合 5
ヒルダと男爵の猿芝居中に、
貴賓席ではちょっとした余興が始まってた。
観客たちが観戦しているところで、発表するのもどうかと思うけど。
国王にはちょっとした事情がある。
彼は、例の薬によって姿を変えた者であるからだ。
国王に成りすました、翁は――『今まで、余は後継者を誰と決めることなく、先延ばしにしてきた。熟慮を重ね、慎重になり過ぎたことで王子たちには、酷い父親に見えたであろう。先ずはそれを詫びよう』と、謝罪する。
国王の真横に第一王子。
20代後半だが、妻もなく剣術と馬術に現を抜かして、騎士団からの人気は高い。
正統であれば次代の王は、長男である彼の席だ。
よって、この心意不確かなる宣言には耳を疑った。
後継者であるから王の右席に、彼を置いたのだと――そう、誰もが思っていたからだ。
貴賓席の右端に第二王子。
20代前半で、妻子あり。
内政にも明るく、農地改革や灌漑事業には特に積極的に取り組んでる。
国民に受けがいいと言うより、豪農などの農園主に太いパイプを持ってた。
その彼をして、いささか心の昂ぶりなどを感じている。
重用されてたのは、長兄である。
故に、次男である“自分”は分を弁えなくてはならない...と、律してたところがある。
いや、そうでなくてはならないと、我慢してた。
我慢した結果、今、国民の受けがいい。
“なら”?
で、最後に。
貴賓席の左端に第三王子。
10代の中頃で、上ふたりの兄と比べると突出したところがない。
いや、むしろ...
バックボーンが無いから一番、クリーンなイメージがある。
当たり障りがないという点の逆説。
当然の欲、いや、野望がある。
ふたりの兄は彼の目にしても、傑物であった。
到底よじ登る事が出来ない壁――と、なれば泣きつくしかない。叔父であり、国の命数に幾ばくかの手札を持つと噂された巨人・先々代の王の末弟にだ。そして、噂通りに、翁にはツテがあった――裏の者たちとの繋がりだ。
そして、翁にとっても...
国王に扮した翁は、
『――熟慮した結果、余の後は、第三王子に与えるものとする!!』
ざわつくのは、貴賓席の方面。
男爵とヒルダの一騎打ちからは、とにかく遠いから娯楽に飢えてた、貴賓席側の客の耳にはすっと入ってきた宣言。
皆は思った事だろう、
国王、御乱心――と。
それほどのインパクトがあった。
貴賓席の客全てが席を立ち、従者に守られる。
理由?
理由か、そりゃあ...第一王子が、国王を刺したからに決まってる。
翁を刺す前に、だ。
王子は、右席から前のめりに、転がるよう立ち上がると...
失意の表情で父を睨んだ。
目端に涙さえも浮かんでた。
「父上! 何故です、何故、末の...いや、次兄に、なら...分かる!! 妻もいて、仔もあり、国民の受けもいい。この国を武装国家としてではなく、平和な良い国に導ける手腕を持っているでしょう!!! しかし、何故、あなたはガキに国の趨勢を!!!!!!」
俯いた王子が再び顔を上げると、
目が真っ赤に震えてた。
血走った感じ?
「何故だ!!!」
翁は応えない。
彼に父は、演じられない。
まあ、そういうこと。
◆
「始まったようだ」
ヒルダが静かに口ずさむ。
平静に見えて、燃えてるような雰囲気。
彼女は、レイピアを棄てた。
「ふ、ふふ...ならば餞別代りに、私の大剣を使え!」
肩から下の腕が無いのに、意識がさえる。
斬られ方が良くて、斬り方が良かった。
「言われるまでもない」
そこからは、あたしもよく覚えていない。
ヒルダが跳躍したのは目で見てたけど、
ミロムが叫んで、
後輩も、何か言ってた気がするけど。




