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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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武王祭 騒動 23 ヒルダの試合 4

「ヒルダさんを相手に手を抜けるとは思えませんが、ただ...」

 後輩の呟きにミロムが添えて、

「うん、ヒルダも相手に合わせて、小兵の真似事をしてる」

 あたしが締める。

 窮屈そうなヒルダを見るのは、ちょっと嫌だ。

 モンスターを見つけるや、

 仲間を置いて、突っ走るあの子は嫌いじゃない。

 それは、輝いて見えた。

 ま、ヒーラーだから治癒士としての仕事も、ちゃんとして欲しいんだが。

 それはそれとして、なかなかに憎めないところがある。


 あれは愛嬌かな。

「ヒルダさんにも唾つけてるんですか? 姐さんは...」

 やや、これは酷い物言い。

 あたしの愛は公平に――。

「セルコットが尻軽のように言うのは、()ちゃんでも赦さないよ~」

 腕にしがみついてた、ミロムがすっくと立ちあがる。

 他の観客からは、

『見えない!』

 とか、

『喧嘩なら他でやれ!!』

 なんて声が上がったんだけど、

 ふたりの恫喝、

 ああ?!に濁点が混じった声で凄まれると、

『どうぞ、どうぞ...こちらにお構いなく』

 数人の客が席から離れていった。

 えっとぉ~ これ、誰が止めるの?



 5分経過の闘技場。

 余裕が無いのは男爵の方で、張り詰めた気力のせいで、とうとう足に疲労が出始めてた。 

 まだ、決定的なミスではない。

 貴賓席にあるこの王国の王子たちが、男爵へ声援を送ってる。

 まあ、これが八百長だと知った時、彼ら王族たちはどう思うのだろうか。


 やっぱり男爵の名誉を守って...

 いやいや。

 ヒルダは、あれはあれでドーセット帝国の出身者だ。

 ひとつボタンの掛け違いがあれば、彼女だって貴賓席に座る方だろう。

 ミロム同様に。

「男爵殿、残り...4分23秒、体力がもちますか?」

 ヒルダは、組み付いた折に呟いた。

 肩で息を繋いでいる冒険者あがりの限界に、本気で心配してみせた。

 彼の方も『これしきの事』と、突き放したかったけれども、予想以上に気力が削られてた。

「軍、用...だったか」

 男爵は溜まらず膝をつく。

 何が起きた訳じゃ無く突いたから、客席に動揺が走った。

 気を遣ったヒルダは、

「きゃあああああ!!!」

 滅多に上げない悲鳴をあげて――

 足元に火炎球を放ち、爆風で飛ばされたという演出にでる。

 客席真下の壁にまで飛ばされ、叩きつけられるまで装った。

 何もそこまでしなくても...


 ――は、あたしたちの心象。


 男爵は大剣を杖代わりに、漸くの思いで立ち上がる。

 流石にもう振り回せるだけの力が、膝にもない。

 がくがくと笑ってるのが、腰にまできてた。

「ぐぅぅぅ...軍用七法、そのひとつで...無念」

 壁にめり込んで見せてた、ヒルダも必死に芝居したのにっていう落胆が増す。

「別に帝国式の、どれも使ってませんよ。ただの足裁き、初歩の初歩......私たちは、先輩、兄弟子たちを相手にダンスの踊り方を倣うんです。それこそ見様見真似で同じ動きが出来まで、そしてこのステップこそが魔法をも、一刀両断に叩き伏せる!!!!! 一撃必滅の剛剣となる」

 間合いって何?

 昔、ヒルダからそんな質問を受けた。

 そして、あたしが彼女と本気でやり合いたくない理由でもある。


 男爵と彼女の間には、4~5メートルほどのがある。

 あたしなら走り込むほどの距離で、

 ミロムなら瞬歩で詰める距離で、

 ヒルダなら、その場で打ち込める射程。


 そう、あの子なら5メートルは遠い距離じゃない。

 振り下ろしたレイピアが、まるで閃光でも放ったように見えた。

 観客の誰もが、そう思ったに違いない。

 あたしにもそう見えた。

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