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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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武王祭 騒動 22 ヒルダの試合 3

 ヒルダのエキシビションは最初から仕組まれたものだ。

 が、これを見抜くには熟練の目が必要になる。

 例えば、賭博場にて“シェシー”に賭けてた、ガムストン・レイ(=協会の調査や露払いな仕事で、組や班を作る時、必ずリーダーとなる人物)なんかは...有り金を100倍にして懐が温かいって話で。

 その彼の眼力が、見逃さなかったり――。

 あ、でもこれはこれでちょっと当てに成らないか...

 身内びいきと言えば、

 ちょっと気まずいし。


 また、観客のひとりとして...

 警備そっちのけのポール・ロイドは、協会のソードマスターって肩書もある。

 この手の脳筋は、さ。

 自分だったら、こう攻略するとか考えちゃうひとり。

 ヒルダの一挙手一投足ってのを、じっと睨みつけてたみたいで。

 やや変態チックに追ってた節もある。

 なんせ、ヒルダのスリーサイズを目算で弾き出してるんだから...これは、これで“なんとかの敵”みたいな匂いがしないでもない...しないでもない。


 一応、彼の名誉として、

 二回ほど否定しておきましたが...

 そんな彼でも、違和感には気が付いてた。

《ヒルダちゃん、お尻の形キレイ!!》

 いや、訂正。

 こいつはストーカーだ。



 そしてもうひとり、後輩もこの会場にあった。

 いや、居ない事もないか――彼女の用意した宿に()()()は、数日ほど帰って無い。

 あの子の事だから、病的に探しまくったに違いない。

 優勝賞金と零してたのを手掛かりに、だ。

 この闘技場にまで、足を運んだのかも。


 んー。

 そんな事を考えたことが、あたしにもありました――後輩ちゃんが探してるのだろうと。

「探す必要がありますか?」

 紅の修道女は教会の人間である。

 そう、女神正教会にて教区長の監視などが、主な任務であるこの娘には多くの目となり、耳となる者がある。つまり、神殿騎士の乙女たちは後輩ちゃんの手足でもあった。

「えっと...嗅ぐ、のは...どういう行為なのでしょうか」

 気まずい。

 ラブラブ中のミロムを横に置き、背後に立つ後輩ちゃんの嫉妬にかられた視線が痛い。

「さて、知りません」


「えっと、じゃ、じゃあ」

 なんで怒ってるんで?

「ミロムさんと一緒にあったならば、それはそれで良いのです。しかし、一報くらいは宿屋に寄こしてください。姐さまが危険な目に遭うことなど...無いとは思いますが、万が一という事もありますし...教会としても探さない訳にはいかないのです」

 怒っている理由が分かった。

 心配させたんだ。

 色んな人たちに。

「えー、それ...私が通報しといたじゃん!」

 ミロムさんからの告白。

 後輩は明後日に身を捩る――「何か、向こうで光った気がしますね」――誤魔化し方が旧い。

 ミロムは、あたしの宿泊先に一報を入れ、協会にも詫びを入れてた。

 いや、もともと“鬼火”の再結成の為に、だ。

 彼女は方々に、あたしの捜索依頼をしてた。


 正教会と魔法詠唱者協会が囲っているって噂で、ここまで足を運んだのだから。

 依頼主が知らない話でもないという事に...

「あら? 後輩ちゃん...」


「そ、そんな事よりも、ヒルダさんの八百長...は、始まりますよ」

 八百長?

 エキシビションって、今、そんな風に。

「そっか、八百長...確かに」

 ミロムさんまで。

 あたしの手を解き、腕にすがる。


 おっと、

 あたしの背後で燃えてる子が居るんだけど...



 観客席の一般人からしたら、

 べリアが振り回す大剣をして、ミノタウロスに大理石の柱でも与えたような、()()に見えているだろう。水を得た魚のように、生き生きとしてはいる。

 が、()()()()にはやや、窮屈そうに見えた。

「あれじゃあ、大振り過ぎる?!」

 ただ振り回しているだけで、腰から力が乗らない。

 剣そのものが、大きく重たいから遠心力で薙ぎ払えば...

 あたしら剣士組は、落胆にため息が混じる。


 逆に客の方は、やっぱり冒険者の剣技は凄いと、褒めたたえてた。

 だが、ただ振り回している大剣に、獣は切れても魔獣は難しい。

「浅い!」

 ヒルダが叫び、レイピアによって大剣が、下から掬い上げられた。

 遠心力で振り回されてるものが、だ。

「ああ、やっぱり」

 ミロムと後輩の声も重なる。

 男爵の上体は、剣と共に仰け反っていた。

「この国の冒険者、質が悪いのか或いは、何か具合でも悪いのか...男爵殿はヒルダさん相手に手を抜きまくっていますね!!!」

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