武王祭 騒動 22 ヒルダの試合 3
ヒルダのエキシビションは最初から仕組まれたものだ。
が、これを見抜くには熟練の目が必要になる。
例えば、賭博場にて“シェシー”に賭けてた、ガムストン・レイ(=協会の調査や露払いな仕事で、組や班を作る時、必ずリーダーとなる人物)なんかは...有り金を100倍にして懐が温かいって話で。
その彼の眼力が、見逃さなかったり――。
あ、でもこれはこれでちょっと当てに成らないか...
身内びいきと言えば、
ちょっと気まずいし。
また、観客のひとりとして...
警備そっちのけのポール・ロイドは、協会のソードマスターって肩書もある。
この手の脳筋は、さ。
自分だったら、こう攻略するとか考えちゃうひとり。
ヒルダの一挙手一投足ってのを、じっと睨みつけてたみたいで。
やや変態チックに追ってた節もある。
なんせ、ヒルダのスリーサイズを目算で弾き出してるんだから...これは、これで“なんとかの敵”みたいな匂いがしないでもない...しないでもない。
一応、彼の名誉として、
二回ほど否定しておきましたが...
そんな彼でも、違和感には気が付いてた。
《ヒルダちゃん、お尻の形キレイ!!》
いや、訂正。
こいつはストーカーだ。
◇
そしてもうひとり、後輩もこの会場にあった。
いや、居ない事もないか――彼女の用意した宿にあたしは、数日ほど帰って無い。
あの子の事だから、病的に探しまくったに違いない。
優勝賞金と零してたのを手掛かりに、だ。
この闘技場にまで、足を運んだのかも。
んー。
そんな事を考えたことが、あたしにもありました――後輩ちゃんが探してるのだろうと。
「探す必要がありますか?」
紅の修道女は教会の人間である。
そう、女神正教会にて教区長の監視などが、主な任務であるこの娘には多くの目となり、耳となる者がある。つまり、神殿騎士の乙女たちは後輩ちゃんの手足でもあった。
「えっと...嗅ぐ、のは...どういう行為なのでしょうか」
気まずい。
ラブラブ中のミロムを横に置き、背後に立つ後輩ちゃんの嫉妬にかられた視線が痛い。
「さて、知りません」
「えっと、じゃ、じゃあ」
なんで怒ってるんで?
「ミロムさんと一緒にあったならば、それはそれで良いのです。しかし、一報くらいは宿屋に寄こしてください。姐さまが危険な目に遭うことなど...無いとは思いますが、万が一という事もありますし...教会としても探さない訳にはいかないのです」
怒っている理由が分かった。
心配させたんだ。
色んな人たちに。
「えー、それ...私が通報しといたじゃん!」
ミロムさんからの告白。
後輩は明後日に身を捩る――「何か、向こうで光った気がしますね」――誤魔化し方が旧い。
ミロムは、あたしの宿泊先に一報を入れ、協会にも詫びを入れてた。
いや、もともと“鬼火”の再結成の為に、だ。
彼女は方々に、あたしの捜索依頼をしてた。
正教会と魔法詠唱者協会が囲っているって噂で、ここまで足を運んだのだから。
依頼主が知らない話でもないという事に...
「あら? 後輩ちゃん...」
「そ、そんな事よりも、ヒルダさんの八百長...は、始まりますよ」
八百長?
エキシビションって、今、そんな風に。
「そっか、八百長...確かに」
ミロムさんまで。
あたしの手を解き、腕にすがる。
おっと、
あたしの背後で燃えてる子が居るんだけど...
◆
観客席の一般人からしたら、
べリアが振り回す大剣をして、ミノタウロスに大理石の柱でも与えたような、ものに見えているだろう。水を得た魚のように、生き生きとしてはいる。
が、見える人にはやや、窮屈そうに見えた。
「あれじゃあ、大振り過ぎる?!」
ただ振り回しているだけで、腰から力が乗らない。
剣そのものが、大きく重たいから遠心力で薙ぎ払えば...
あたしら剣士組は、落胆にため息が混じる。
逆に客の方は、やっぱり冒険者の剣技は凄いと、褒めたたえてた。
だが、ただ振り回している大剣に、獣は切れても魔獣は難しい。
「浅い!」
ヒルダが叫び、レイピアによって大剣が、下から掬い上げられた。
遠心力で振り回されてるものが、だ。
「ああ、やっぱり」
ミロムと後輩の声も重なる。
男爵の上体は、剣と共に仰け反っていた。
「この国の冒険者、質が悪いのか或いは、何か具合でも悪いのか...男爵殿はヒルダさん相手に手を抜きまくっていますね!!!」




