武王祭 騒動 20 ヒルダの試合 1
官僚が席に戻ると、
警備隊長の躯は血糊だけを残して消えてた。
運営管理者を捕まえて、尋ねると――「変死です」としか返ってこない。
少々不可解さと、心残りめいたもの...こう、
胸の内のもやっと感があるんだけども。
そんなに長い付き合いでもなかった。
そんな事もあるだろうって、切り替えも早くて...彼、官僚さんは命拾いした。
もしもだ、変に騒ぎ立ててたらと思うと、ゾッとすると思うよ。
だって、
変死が受け入れられなかったら、彼の躯も地下にあるカタコンベに横たわっていたかもしれない。
その警備隊長と同じ姿で。
◇
さて、忘れられそうになった組の試合が始まろうとしてた。
賭博管理員会は、大会運営を装って活動している非合法の組織である。
その彼らが失念したのが――
ヒルダの試合である。
実のところ、
棄権しますって通達があって、カードが繰り上がるところだったんだ。
ヒルダの素振りを見てしまった、放浪の戦士がどうも戦意喪失したという。
「そいつは分からんでもない」
ミロム・バーナードは、零した。
同室の戦士たちは、食事に夢中だったんで彼女の独り言は、あたしが胸に納めたところ――「え?! なんで、何で誰も留めてくれないの!!!」――って掴みかかってきたんだけど。
「ミロムさんや、今、何時か...わるかな?」
「昼時でしょ」
そう昼だ。
ヒルダの試合は忘れられてた。
本人にも通達されずに、じゃあ、控室の外でメシ喰おうってなノリになってたところへ。
例の不戦敗じゃ締まりも、具合も悪いのでひとつやっちゃってください!!
運営からエキシビションみたいな試合が組まれた。
もう迷惑レベルの何物でもない。
「ヒルダさんが、渋々連れていかれたのは...覚えてるかな?」
ミロムの目が斜め上を仰ぐ。
あ、覚えてない...
こりゃ、ダメだ。
「――ま、勝っても負けてもヒルダさんは、次の試合に出れるそうなので...運営さんらが宥めるようにして連れて行ったわけですよ!!」
ああ、それも覚えてないと。
「ま、そんな試合ならと...みんなもこう、食事に夢中なわけです」
腕を広げて、あたしは部屋の動物園化を披露する。
さあ、目を覚ますんだ! ミロムさん。
あ...
神殿騎士の乙女たちが、
腕を広げたあたしの元に殺到すると、だ。
脇の下を吸っていきやがった。
「ふぅー!!!」
ミロムさんが毛を逆立てながら威嚇する。
ケモノかッ
「なんで吸うかなあ...」
ご神体を拝むようなものだろうか。
◆
この試合の裏では、
ちょっと外交的駆け引きめいたものがあった。
先ずは不慮の事故として、ラグナル聖国の法王の変死がある――いやあ、これはあたしの技によるものだし、とことんまで追求するとか言われると...ちょっと尻が痒くなる感じが。
煙の立たないところに火はないとかいうものだけど。
守銭奴とか過去、言われるようなことしてたあたし。
下手うったら、それ...暗殺したんじゃ?
って濡れ衣もあり得る。
ああ、やだやだ。
メガ・ラニア公国出身だという、ジジイが地下道にある。
「未だに手がジンジン響いておるわ! なんなんじゃあの小娘は、見た通りならば10...6、7歳くらいの小便臭い青二才だと思って対峙して...戦って見れば場数は、組織の狂戦士らと大差ないというレベル。まっこと本当にアレで、魔法使いなのか!!」
って、怪訝な表情をつくる。
曲がってた腰も、突いてた杖もない。
見た目がジジイだけど、
あたしの事を知ってるような、素振り――
「宗主さまのお導きです」
崇拝者ならば、
そう切り出されると、悪態も吐けなくなる魔法の呪文。
ジジイは、履き捨てるよう...
「まあ、いい。俺の仕事は...終わったのだよな?」
賢者の目の前に、和装の男がある。
扇子を広げ、口元を隠し...
「無事、舞台は整いました」




