武王祭 騒動 18 あたしと賢者の試合 6
狭いとこで戦いたい。
これは思い付きだけど、
向き変えられるんじゃ...ね?
幸い、獲物の剣はブロードソード。
片手剣のなかでは、長い方の部類。
その分、重い。
これは片手で扱うギリギリの重量ってことで。
そうだなあ...刀身の重みで振り回す様に、考えられてた――主流な片手剣はショートソードの方。勘違いされるけど、ショートソードは振り回しやすいっていう意味で、短剣じゃあない。
ブロードソードの刃渡りは平均で60センチメートル前後。
差はあるけど、あたしのは55センチメートル。
ヒルダのは75センチメートルで、ミロムのは63センチメートル。
ふたりのと図りっこした。
懐かしい...
冒険者ギルドでも、ショートソードを推奨している。
勿論、取り回しが良いから。
身の丈に合っているっていう、外見の話ではなく。
片手で操作するために十分な長さと、重さ、そしてバランスがある。
ショートソードの刃渡りは最大で50センチメートル前後で、最小で35センチメートル。
これに柄があり、鍔が付くのだから...剣自体は、わりと大きいんだよ。
で、もう一度、あたしは自分の獲物を見てた。
利き手に握られた相棒を。
たまに太腿で挟む事のある、それをだ。
いけるかも――と思い立つ。
◇
対岸にあたしを見るジジイがあった。
《何を企む?!》
気配というか、直感で感じてる。
賢者と呼ばれるには、やっぱりそれなりの研鑽を積んできた。
一朝一夕で名乗れるような、易い称号でもない。
《ここは、空中にも少し撒いておく、か...》
って、彼は自身の周囲をマッピングし始める。
地雷の設置には、座標値が要る。
これは仕掛け罠と同じ要領だ。
だけども、少しだけ...
彼、ジジイは遅かった。
「よっと!」
あたしが踏み込んだ寸で上空へ飛ぶ。
ま、踏み込んだ先で爆発したんで。
あたしは爆風に身を任せて、高く飛ぶことが出来た。
《やはり、致命的なダメージに繋がらんか!?》
ジジイとしても、胸中に焦りはある。
かすり傷をこさえることは可能――ただし、物理攻撃に限るという条件が、魔法使いに苦悩を与える。
魔法で爆発を起こさせて、地中の小石などで礫の代用とする攻撃が、地味に効いている。
今はいい。
今は。
このかすり傷で怯まなくなったら...
ブロードソードの刀身を寝かせて、
屈めた足の下に置く。
鍔に巻き付けておいた紐を緩ませた後、あたしは跳躍に利用した。
自分の剣をだ。
「な、んだと!!」
ジジイの手元から、氷の礫が放たれる。
ま、これを腹にモロ受けして、再び同じ跳躍で空へ。
こやってジグザグに動いて間合いを詰める。
あたし自身も魔法使いだし、剣士ってのはサブの職業だと思ってる。
盗賊狩りの盗賊紛いもしてたけど...
やっぱり魔法使いだと思う。
そんなあたしからしても、この移動法はちょっとないな。
出来たからって自慢は出来ない。
他の魔法使いみたいに...色んな魔法で戦いたいってジレンマは、ある。
出来ないから、こうなった。
鋭角に飛び込んで、ジジイの懐間近に迫った。
ここなら賢者の表情だって素直に読める。
『しまった??!』
思った。
思わせた...
鍔に括りつけた紐を引っ張り、剣を呼ぶ。
受け損なって左手を斬るんだけど...それは、それで。
腰からショートソードが抜き取るだけで。
「マジックシールド!!!」
ジジイの判断は正しい。
今から出す技は...
“リーズ王国式抜刀術・炎閃”
刀身から“火炎球”紛いのを出すもの。
厳密には纏った火属性魔法を、直線状に突き放つものでファイヤーボールとは、少し違う。
似てるけど、違うって...師匠から叩かれて教わったもの。
◆
試合は決する。
あたしの失格って形で。
試合だから何でもしていい、訳じゃ無いってのを知る。
失格したんだけど。
賢者の爺さんが辞退した――理由は色々あるようだけど、炎閃の軌道を反らすのに、全魔力を使い果たしたんだと。...ま、精根も尽きて、今はとにかく寝たいんだそうな。
「試合で負けたのに、上にあがっていいの?」
って、運営に尋ねたんだけど。
「賭ける対象がいない試合ほど盛り上がりに欠ける! 今回は特例で...おにゃしゃす」
――だって。




