後輩エルフと、白の枢機卿、5
すぐに診せなかったから。
姉弟子の狭い額にバッテンみたいな傷跡が残った――「女の子なのだから肌は大切に」枢機卿のセリフに他の修道女まで頬を朱に染めてた。
表向きに巫女陛下の隣に立つのは、腰の曲がった老婆だ。
巫女陛下の少女然とした彼女から『やりすぎ、糞ババアを横に侍らせると朕の威厳が霞む』と呆れられたことがある。
いな、ほぼ毎日の出来事だ。
その理由というか、ギャップというか。
普段はやや低いトーンの美魔女っぽい雰囲気のある女性だ。
純白を基調としたローブを肩に掛け、窓の縁に肘なんかついて物思いにふける。
廊下と廊下の交わるT字路で角に寄りかかりながら――細身で凛々しく小さな尻に薄い筋肉のライン。
冷めた視線で巫女の禊を見つめ、不機嫌そうな表情だが虚ろな視線。
それらのすべての所作が、少女たちの胸に早鐘を打つ。
枢機卿の立ち姿が絵になった。
同性とか、そんなの関係とばかりに。
こう、180センチメートルを超える身体、長い四肢と小さな顔。
歌劇団の役者のような立ち絵と、騎士に後れを取らない身体能力。
枢機卿曰く――『私が騎士?! 何の冗談だ。私はこれでも高位の術式に長ける魔法使いだ』と譲らない構え、そういう意味じゃないんだけど。
と、修道女や神殿騎士らは釈明したんだとかしないんだか。
演劇は数少ない娯楽なので、ここ神殿都市では修道女にも解禁されてた。
ああ、そういや。
後輩も教会の用事を済ませて街に戻った時に。
何かにカブレてたな、アレが歌劇ってヤツかな。
◇
卓上に頬突てしてる姉弟子。
茶菓子の殆どは額に傷を負った彼女が食い荒らした後で――「廊下の方から聞こえる囀りが目の前の枢機卿のだと思うと。これはあれかな、修道女さんに部屋出た瞬間に刺されて殺されたりしちゃんうんですかね?」
治癒してくれた恩は、それは其れ。
後輩や生徒の大半が教会に潜ませてある。
しかし、その誰もが1年も経つと、便りを寄越さなくなる。
実態は仕事が忙しいので報告書なんて書いてる暇が無いからだが。
「それが、私だと?!」
買被るな、と。
歌劇の男役風な枢機卿がハエを払った。
そんな風に見えたのだ。
「うっわ、ムカつく」
「先生もムキに成らないで!!」
蒼の魔女が仲裁に。
ならなかった。
「お前らも染まりやがって、学校指定のローブはどこやった!?! 売ったのか、売ったんだな」
いあ、あるって。
卒業の記念じゃねえか。




