港街の悪い噂 3
「姐さんなら、ひとりで...何人やれますか?!」
なんて物騒な言葉をかけてくる。
どうしようもないガキだな。
ちょっと気の毒に思えるよ、目の前のチンピラが。
「左右の民家にいる火縄のをバラせば...目の前は何人いようと魔法で終わりだから...そんなに時間はかからないと思うけど。これさ、何かの遊びなの?」
今更、あたしを困らせる必要はない。
学校の後背だと言っても、コイツを知らないほど昔に卒業した訳じゃ無い。
この後輩は、才能が豊かで困ったね――火炎球しか使えないあたしよりも優秀でさ、こっちは何も教えて遣るような事がなくてさ、いやあ、まいったよ...実力が違うってのは嫉妬もわかないんだって。
でも、なんだろうなあ。
接点がないはずなのに、こいつはあたしを“姐さん”って憑いてくる。
もう悪霊か、悪魔かってくらいについて回ってきたものさ。
今でも何でコイツが、あたしに絡んでくるのか分からないねえ。
◇◆◇◆◇◆
修道女然とした格好でアタシを見下ろす女。
《姐さんは凄い人だ。在学中の武者修行先で、魔獣を打倒したという逸話がある...その村に“私”がいた。すっかり忘れて、毛の先ほども覚えてないだろうけども》
爪を噛みながら、じっと見つめてくる。
「怖いこと事、考えたついでにお知らせ...ここ再開発決定地域なんで、派手に壊してもOKです!何なら、2、3人の死体も...そう、再開発中に埋もれると思うんで...」
だってさ。
プリーストだとか言ってた、口から出る台詞じゃないなあ。
いやいや、死人どころか物も壊したくないよ。
再開発だからと言っても壊せば当然、調べられる...と、なれば別の任務で動いてるアサシン君にも迷惑がかかる話さ。だいたい『あれ? またなんかやっちゃいました』とか通じる頭花畑みたいな国、何処にでもあると思うな。
街の自警団どころか、警備隊にびたーんって引っ叩かれるぞ!!
「姐さん、ひどい!!!」
ほら、チンピラさんら涙目じゃんよ。
おっと、やっぱりこいつら仲間でしたか?!
「袋小路に誘い込んで、姐さんに街の怖さを教えてあげるつもりでしたが...美人局だってバレちゃいましたね?」
うん、そうだね後輩。
「でも、財布は返して貰えたけど...やっぱり、あたしの変装は甘かったかな?」
今度はチンピラたちに問う。
リーダー格の小男は、腕力とかそういうのが得意には見えない。
どちらかというと...
「指摘はすべて屋根の上の、姐さんからのアドバイスあってのこと。俺たちの目では乞食がエルフだなんて思いもしませんでしたよ。今も、エルフの姉さんのカウンタースキルで、俺のMPが削り取られてます...一体何者なんですか?!」
◆◇◆◇◆◇◆◇
「協会が雇った冒険者、今はそれで十分じゃないかな?」
右の家屋からアサシン君が陽の下に現れる。
屋根上の後背も知覚系スキルで気が付いてたっぽい。
驚いてはなかった。
と、なるとアサシン君のスキルレベルに対抗できるスキル持ちか、同レベル帯の同業者っぽい構成であるという事か。ま、あたしの方は、彼が声を出すまで認識できてなかった。
半径6メートル前後まで隠密の上位スキルを使われたら、あたしは。
「協会...ああ、確か“いい人材は”って申し込んできた人たちか、OK、OK...そっか、姐さんを買った人たちって君たちか!!」
なんか嬉しそうだな、後輩。
屋根上からするすると降りてくる。
軽業系のスキルだと思われる、が。
「あんた、本当に聖職者の職も取ったの?」
魔法使いは、職業の枝分かれが多い。
たいていの場合は研究者に進みたがる――理由として、頭でっかちだから。
例えば、魔法という力の根源を知りたいから極めて、奮いたいってのは常識からいうと1%の過激派にはいる。
魔法使いは物臭なので、魔法でどんな事が出来るのかを研究したがる。
その結果で生じた事象にも無関心だ。
悪魔が呼び出せる魔法を創る...過程を楽しみ、作り出せたら興味ゼロ。
次に、魔王でも呼び出そうとするかもしれない。
が、呼び出した後の始末は放置だ。
研究者人口は90%。
冒険者登録して、旅行を満喫したい魔法使いが8%で。
魔法或いは錬金術で儲けたいが1%...悪い事がしたいも1%って感じ。
「なんか、長い解説してましたが...どんな話を?」
「いや、魔法使いの人口という...いや、それよりも」
後輩はあたしのお腹にダイブしてきた。
おいおい今のアタシは、乞食なんですが?!
どーんって来たね、どーんって。
腹の中身が背中から出ていくんじゃないかって、勢いで飛び込まれたわ。
最初はハグしてやろうの気持ちだった。
が、アレなし。