武王祭 騒動 15 あたしと賢者の試合 3
あたしの周りが、ちょっと焦げ臭い。
火炎、爆破、炎症ダメージのすべてにおいて、あたしの前では相殺可能だ。
世界で活躍する魔法使いたちの学校にて、今も教鞭をとっているあたしの師匠曰く――『セルコット・シェシーは、数多の魔法使いとは異なり異質じゃ。何がと問われれば、先ず挙げられるのが、彼女の特異体質であろう...すべての属性に対応する高い耐性体持って生まれたことじゃな。これのせいもあって、使える魔法は火属性の火炎球まで...これは本人とってもデメリットのはずじゃ』と、評価してた。
学校ではそうだなあ、教壇に座らされて...
うん、生きる標本みたいな扱いを受けさせられたね。
だって、すべての属性無効化。
チートじゃん。
ま、無効化っても...当たってダメージが身体にまで届かないってだけの話で。
例えば、水着みたいな布一枚だと。
布はダメージ切れたり、燃えたり、塵に成ったりする。
しかも。
こいつは、魔法属性に対する攻撃でのみの話。
火矢の炎は深度が低いから...打ち消せたとしても、矢は刺さるからね。
オークのこん棒で殴られれば、失神か、死ぬから実験しないで欲しい。
マジ、そんな体験もさせられた。
◇
で、だ。
さっきからあたしの周りで焦げ臭い...訳なんですが。
焦げ臭いのは...あたしの一張羅である、ローブが燃えてた。
「ヤッバ!! 燃えてる、燃えてる!!!!!」
両手で叩きながら、火を消してた。
火傷しないってんなら、気にせず火が触れる。
対岸のジジイは二やついてる雰囲気。
ああ、そっか。
あたしはダメージはないけど...服はそうじゃない。
燃えてたローブを見て、
彼は考えた――『身包み剥いで、ヤル』と、人差し指と中指の間に親指を差し込んだジェスチャー。
会場からもどよめく声援。
いや、映し出された巨大スクリーンに、例のジェスチャーが抜き出されてたからだ。
ブーイングである。
剣を構え直す。
あたしのは火力が強いから、鞘に納められない。
◆
控室でもブーイングだ。
男女に関係なく部屋では、賢者はすべての人々の敵になった。
「あれは無いわ」
ヒルダが身を捩り、
乳房を掴んで...
「会場で相手の同意なく“まぐわい”のコールサイン! 狂気の沙汰...セルコットちゃんを墜とせるとおもってるんかな...あの糞ジジイは!!!」
身震い?
いや、武者震い。
でも、ゾクゾクする。
世間知らずのあたしは、そのサインを知らない。
ミロムも静かに怒ってるね。
たぶん、会場のどこかで見てるだろう後輩もだ。
「あのお爺ちゃんは、どう出るか」
ミロムは静かに燃える。
沈静化したと見せかけた森林火災みたいな...何処かで機会を伺うような、小さな火のように。
「魔法使いにとって相性は最悪だよ。魔法使い職が、ショートソードで生計を立てられないとは言えないことは、彼女自身が示してるし私らも大概だ。でも、一般論からすれば...だ。魔法使いが実体剣を持ち歩くのは、重量が嵩む理由でアイテム士がポーションを棄てるのと同じこと」
「そう。剣は属性に備えて作り、練り上げればいい。わざわざ鋼を引いた実体剣を持つ必要はない!! これが通用しないのがセルコット・シェシーの怖いところだ。額面通りに受け取れば...では、会場を敵に回してまで挑発したのは、なぜか?!」
あたしをよく知るふたりが頭を抱える。
滑稽です、わ。
だって...
あのジェスチャー。
挑発だってことも知らないあたしに何があろう。
そう、何もない。
あたしは、何の迷いもなく一歩、前に踏み出して――すっ飛んだ。




