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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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武王祭 騒動 11

 通常槍術といえば、2メートルを超える棒状に、刃の穂先が乗ったものだ。

 まれに鎌のような反りの別れたものも...あるんだけんども。

 そいつまで槍というのでは、ちょっと乱暴なような気がする。

 さて、馬の進行を止める目的の...パイク槍とか、

 弓なりよろしくの長槍と、投擲を目的とした短槍なども種類としてある。

 投擲の短槍のほうもタイプが多くて、ね。

 腕の力だけで飛ばすのは、まま。

 投石の要領で、柄の下部に紐を括りつけてより長いリーチと、反動で飛ばすのもある。

 紐がゴムってのもあるようだけど...この辺はもう、どうでもいいね。


 こうやって使われる用途が、それぞれに違うのだから、用法としての統一は難しい。

 投擲術とか、短槍術なんて感じで流派ごとに分かれてた。

 でも、それを()()させた人物がある。


 帝国式の軍用七法って武術の創始者。

 4メートル未満の槍は“()”術の中に納めたとか、聞いたけど。

 ヒルダ曰く「何それ、美味しいの?」だ。

 こいつはこんな子だ。

 分かってた...



 しばし、あたしの目が点になる。

 あたしの指をしゃぶる子こそ、ヒルダ。

 いや、脱ごうとしたあたしを叩いた子が、彼女。

「槍術は“棒”術に格納されて、剣術は両手、片手、仕込みくらいの系統しかないんですよ。わりと覚えやすいんで...人気があるんです!!」

 人気がある理由は、別だろうけども。

 あれ、じゃあ、砲術は?

「てつはう?」

 いつの子ですか。

「てつはぅ?」

 言い直さなくてもいい。

 言い直せてないけど、口にするな。

「てぇつ...」


「話が進まねえ!」

 警備隊長は、官僚の彼に苛立ちながら。

「分が悪いのは分かるが、こう睨み合ってるってのは...」

 面白くはない。

 っても、別に試合が動いてない訳じゃあない。

 左手側で支えてるブロードソードが、槍の線を弾いている。

 金属が擦れてるときは、騎士の剣によって軌道が反らされてるものだ。

 攻めあぐねているように見えるのが、槍使いだから――よくない。


《リーチがあるのに、踏み込めない...踏み込ませない何かがある》

 隊長から見てもそう、思わされる。

 騎士の右手が気になるのだ。

 左腕に支えられた右。

 膳に添えられる漬物程度ならば、これは大して怖くない。

「くっ」

 また、槍使い側が大きく、間合いを取る。

「お強いですね!」

 兜の下から、少女の声。

 身のこなしの柔らかさから、察しはついてた。

 が、踏み込むと寒気がする。


《侮れない》

 観客席の方々へ視線を僅かに向けて――槍使いは警備隊長を探す。

 会場の最前席で見てるんだけど、

 こういう時は見えないものだ。


 たとえ、彼を見つけたとしても。

 何ができるかとも、思えない。


 焦らされた、から?

 神殿騎士の方から飛び込んできた。

 槍というリーチすらモノともしない、ふっ切れようだ。

 で、彼の目の前から消える。

 ハーラルは、上下に視線を飛ばしたけど...「いない!?」

 観客の目では、ハーラルの側面に彼女があった。

 別に何をしたわけじゃない。

 唐突に近寄って見せた後に、大きく真横へ飛んだだけだ。

 獅子殺しのハーラルと馳せた、武者の死角へと。

「ちくしょー、そうか、そういう事か!!」

 隊長に問う形で、

「何がだ」


「ハーラルは若い頃、うけた病で、視界の一部が欠けて見えるという。一騎打ちでも獣みたいな超感覚で、直観とでもいうのか...研ぎ澄まされたソレで、補っていると聞いたことがある。が、変な打ち込みをする、しかも攻撃のすべてが通らぬ...通りにくい相手となると」

 すぅーっと、息を吐く。

 興奮はしてたけど、頭は冷静だ。

 観客こっちには見えて、戦士ハーラルには見えない状況。

 彼は今頃、生きた心地がしないだろう。

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