武王祭 騒動 11
通常槍術といえば、2メートルを超える棒状に、刃の穂先が乗ったものだ。
まれに鎌のような反りの別れたものも...あるんだけんども。
そいつまで槍というのでは、ちょっと乱暴なような気がする。
さて、馬の進行を止める目的の...パイク槍とか、
弓なりよろしくの長槍と、投擲を目的とした短槍なども種類としてある。
投擲の短槍のほうもタイプが多くて、ね。
腕の力だけで飛ばすのは、まま。
投石の要領で、柄の下部に紐を括りつけてより長いリーチと、反動で飛ばすのもある。
紐がゴムってのもあるようだけど...この辺はもう、どうでもいいね。
こうやって使われる用途が、それぞれに違うのだから、用法としての統一は難しい。
投擲術とか、短槍術なんて感じで流派ごとに分かれてた。
でも、それを統一させた人物がある。
帝国式の軍用七法って武術の創始者。
4メートル未満の槍は“剣”術の中に納めたとか、聞いたけど。
ヒルダ曰く「何それ、美味しいの?」だ。
こいつはこんな子だ。
分かってた...
◇
しばし、あたしの目が点になる。
あたしの指をしゃぶる子こそ、ヒルダ。
いや、脱ごうとしたあたしを叩いた子が、彼女。
「槍術は“棒”術に格納されて、剣術は両手、片手、仕込みくらいの系統しかないんですよ。わりと覚えやすいんで...人気があるんです!!」
人気がある理由は、別だろうけども。
あれ、じゃあ、砲術は?
「てつはう?」
いつの子ですか。
「てつはぅ?」
言い直さなくてもいい。
言い直せてないけど、口にするな。
「てぇつ...」
「話が進まねえ!」
警備隊長は、官僚の彼に苛立ちながら。
「分が悪いのは分かるが、こう睨み合ってるってのは...」
面白くはない。
っても、別に試合が動いてない訳じゃあない。
左手側で支えてるブロードソードが、槍の線を弾いている。
金属が擦れてるときは、騎士の剣によって軌道が反らされてるものだ。
攻めあぐねているように見えるのが、槍使いだから――よくない。
《リーチがあるのに、踏み込めない...踏み込ませない何かがある》
隊長から見てもそう、思わされる。
騎士の右手が気になるのだ。
左腕に支えられた右。
膳に添えられる漬物程度ならば、これは大して怖くない。
「くっ」
また、槍使い側が大きく、間合いを取る。
「お強いですね!」
兜の下から、少女の声。
身のこなしの柔らかさから、察しはついてた。
が、踏み込むと寒気がする。
《侮れない》
観客席の方々へ視線を僅かに向けて――槍使いは警備隊長を探す。
会場の最前席で見てるんだけど、
こういう時は見えないものだ。
たとえ、彼を見つけたとしても。
何ができるかとも、思えない。
焦らされた、から?
神殿騎士の方から飛び込んできた。
槍というリーチすらモノともしない、ふっ切れようだ。
で、彼の目の前から消える。
ハーラルは、上下に視線を飛ばしたけど...「いない!?」
観客の目では、ハーラルの側面に彼女があった。
別に何をしたわけじゃない。
唐突に近寄って見せた後に、大きく真横へ飛んだだけだ。
獅子殺しのハーラルと馳せた、武者の死角へと。
「ちくしょー、そうか、そういう事か!!」
隊長に問う形で、
「何がだ」
「ハーラルは若い頃、うけた病で、視界の一部が欠けて見えるという。一騎打ちでも獣みたいな超感覚で、直観とでもいうのか...研ぎ澄まされたソレで、補っていると聞いたことがある。が、変な打ち込みをする、しかも攻撃のすべてが通らぬ...通りにくい相手となると」
すぅーっと、息を吐く。
興奮はしてたけど、頭は冷静だ。
観客には見えて、戦士には見えない状況。
彼は今頃、生きた心地がしないだろう。




