武王祭 騒動 10
ギャンブラーたるもの、
その身一つで、戦い抜くべし――という心構えがあって。
「ちょ、ちょ、ちょ...ちょい待ち!」
アホかーって小突かれた。
小突いてきたのは、同じ部屋に押し込められてる、ノラ剣士ヒルダにだ。
ブロックは別だけど闘技場は旧い作りだから、女性専用の控室というのがないという。
で、だ。
セキュリティとプライバシーっつうのを加味すると、だ。
だったら、女の子だけいっしょくたにぶっこんでおいて、それぞれが見張ってればよくね?!
なんて、乱暴な発想に至ったという。
ま、この発想は、だ。
あれ、この大会を本戦だとすると、トライアルみたいな予備大会も無かった頃の...時代の話。
まさかだよ!
まさか、武闘派人口が女の子にまで及ぶとは、思ってない頃だもん。
せいぜい、物好きな...
それこそ巨人族の娘? みたいなのとか。
ドワーフ族の「おまえも女?」ってなのが来るくらいだと、勝手に思ってた。
ひょっとすると。
イカ娘とか、タコ娘、ウマっぽい娘にウシ娘、イヌ娘、ネコ娘なんかも...あるかなあって期待はしてた頃の旧い規則である。
エルフや人族の乙女が来るとは、思っていないだろう。
「自分を乙女だと言えるなら、ここで服を脱ぐな!!」
って、ヒルダがあたしの頬を引っ張る。
こいつとも腐れ縁が...
売れ残り女の子パーティ“鬼火”の治癒士だったのが、彼女。
ドーセット帝国出身のヒーラーだったんだけんども。
昔から人の回復よりも先に、敵を刻んでた方が多かったと思えば...
本職はそっちだった訳だ。
「気が付け!!」
って、ミロムに殴られた。
あ、はぅ...師匠にも殴られたこと無いのに!!!
「知らんわ!」
目が怖い。
目が怖い。
落ち着け、ミロムちゃん。
◆
会場の方では盛り上がってる。
Cブロックの2回戦には、草試合で勝ちあがってた神殿騎士の子がある。
あたしと手合わせしてくれなかった、彼女だ。
抜刀した剣は、ブロードソード。
持ち手が左っぽいんだけど、も。
利き手が左?
騎士階級にしては、ま、珍しいというか。
左利きも、強制的に右へ変えられる筈ではある。
単純に右利きが多いので、武具のつくりも必然的に右利き用になる。
戦場のど真ん中で、当人が、左利きだったばかり。
手に取った武器が扱えなかった...では、兵士でもなくなる。
本人が勝手に死ぬのはいい。
これで味方の命も掛かってたとか、
シチュエーションとしてはなくもないから、余計にちぐはぐなバグレベルの修正が科せられる。
それが戦場で生きる者たちの宿命。
いや、あたしたち冒険者も、含められた生き方だ。
でも、Cブロックの彼女のは杞憂だった。
対する相手は短槍の遣い手。
たしか...
「ラグナル聖国の短槍遣い、獅子殺しのハーラル!」
獅子殺しは忌み名で。
実のところ、聖国の聖騎士だった父親を、殺した男だと吹聴していることになる。
当然、本人も嫌っている筈なんだけど。
親殺しは彼の中では英雄に等しかった。
ラグナル聖国は、武闘派じゃない。
ざっくりいうと、女神正教と似た雰囲気の“刀神を祀る”国だった。
この場合の神こそ英雄ロブスローク、その人だと言われてる。
数百年か、いや数千年前の勇者だとする...かつて人だったものの墓所がある、とか...。
他大陸の...
そっちの事情には明るくないから、これまで。
えっと、
で、短槍遣いの槍は長さにして、約1メートルちょい。
ブロードソードの切っ先よりは、やや長いと言った感じ。
誤差と言えるほどの力量差があれば...いいんだけど。
《ちょっと分が悪い...》




