武王祭 騒動 9
エール売りと警備隊長を介して、
王都のとくに警備が薄い箇所が、ぱっと見では分からない暗号で記されてた。
警備隊長が実際に口を付けたエールは、せいぜい4杯程度だ。
が、レシートには20数杯も、飲んだかのような数字になっている。
これがからくりだ。
《会場の警備は、近衛ではない...か》
秘密結社アメジストの陰謀もここに関わってくる。
秘密裏に王を殺害し、成りすました老師の指示によって、本来は厚くなるはずの開錠が手薄になっている。と、俯瞰した形で会場の構造図に、光点とする警備兵を置いて行っても厳重から、やや厳重って気休め程度でしかない。
近衛兵の剣は、この王国史でもっとも最強であるといえる。
何をするにしても...
生きて会場を後に出来る保証はないだろう。
◇
「トイレ、込み過ぎ」
警備隊長が涙目で帰ってきた。
官僚には、
「仮設でもいいからトイレを求む!」
「おしっこくらい野晒しでも問題なかろうが」
ってな具合で切り捨てられるんだけども、
隊長さんは、それでもなお。
「“大”はムリがある!」
「いや、ぜんぜんだろ。男に生まれた不運を呪うがいい!!!」
いや、食い下がる。
「5歩譲って、俺が女だとするぞ!」
「なんで5歩でお前が女に成れるんだ!! 500歩くらい後ろに下がれ! そして世の中の女性に謝れ、失礼なこと言ってしまいましたと、謝罪するんだよ!!!!」
官僚の手を握り、
隊長さんは、
「野糞している女を見たら、お前はどう思う?!」
軽蔑するよな、見られてる俺だって糞ひねってる尻を見られたら...もう、散る覚悟をする。
「女性用の仮設トイレは、...ああ、ええと...職員からも、可及的速やかにという要望によって、必要以上に多く作ってある!! これはお前が心配するような」
「ま、マジか!?」
「お、おう、よ」
「それは1万人とか、10万人とかか?」
持ってたオッズ表を膝の上に置き、
目まぐるしく瞬きしながら、空を仰ぐ官僚。
「お、お前は...そんなに。いや、どこに設置するんだ! 置けるか、1000基とか、2000基くらいだよ。簡易トイレだから、タンクの容量も少量だ。汲み取りじゃ無い分、錬金術により糞は直ぐに乾燥して、土に還り易いよう工夫はしたと...」
説明している彼を他所に。
隊長さんは、売り子さんを捕まえて、
「ナマ2つ、後、トロツナ・バーガーひとつ」
「待てい、待てい!」
「なんだよ」
注文した後だかんなって。
「何、俺の話をする―してるんだよ! トイレの話だろ、今まで」
「まだやってたんか? それよりも、Cブロックの2回戦は誰?」
試合のプログラムは、官僚の手にある。
膝の上にあったもので、AブロックとBブロックのシード枠が入ってこない、カードの結果はもう掲示板に出ている。
賭博会場でも、歓喜の声と敗れた者たちのすすり泣く声が、混ざってた。
もっとも、ギャンブラーたちは勝ち負けに関係なく、脱ぎたがるのも性分のようである。
◆
で、控室にも掲示板はあって。
あたしも...ギャンブラーの血が騒いだ結果、だ。
上着を脱ぎ始めたところで、女剣士のミロムに止められてたクチだ。




