奔れ、ワンコたち 5
内陸にあるセーライム聖王国まで普通に馬車を奔らせると、ひと月は見る必要がある。
10人以上の人員を無作為に詰め込んでも3ないし、4台の客車が必須で。
さらにそんな大きな客車を引くとなれば少なくとも、馬の頭数も2頭ずつ計8頭か。
それが用意できる街を選択しながら進む工程だ。
生半可な道のりではない。
時には紛争地帯に入ったり。
あるいは道がなくなってたり、盗賊や追いはぎに、奴隷商人たちに狙われることもあるだろう。
世の中、アクシデントの無い旅なんてものはないんだ。
そうやって考え直してみると。
乙女神の救いの手はどんなに大きかったことか――「あ、今、野盗たちを追い抜いたよ!!」
マディヤの好奇心が窓の外にあった。
とはいっても、ひと足飛びで百里も走る馬の前では。
イベントフラグなんてミシン目にもなりやしない。
◇
「動力源の動力はどうやって補充するんだろうな?」
アイヴァーさんの気づきに、騎士団員も固まる。
そういや魔術師もそんな説明書は残してないな。
「うーんと、ね...」
なで肩を小さく竦めながら、マディヤが絞り出す声音。
「たまに弾き飛ばしてる人や、動物たちの魂だと思うよ」
聞かなきゃよかった。
それよりも残り半日で、あたしとの。
いや、今は分れ離れになった魔王ちゃんとの約束の日時に間に合う。
結社幹部があるとする聖王都の郊外に集合する。
「郊外って何処かな?」
さて。
今、逃走中のあたしらに念話を飛ばしても誰が取るか。
逃げるのも、ヤるのも余裕なミロムさんが受信するかもだな。
『あーはいはい、こちら“蒼の魔女”です』
緊急海戦に割り込むは、後輩の魔女。
あたしよりも多くの支援・補助魔法に通じて、各方面では特に斥候として腕を買われてた。
教会でも一目置かれる塔の二重スパイなんだけども。
今は丁度、手が放せる状況のようだった。
「蒼の!」
『はーい?』
なんかマヌケな冗長に感じる。
ひと足跳びにとは表現で、跳躍には魔術的な現象が影響してた。
跳躍中の僅かな空間では時間がゆっくりと流れるようだ。
これはお転婆な妹柱と、ナシムの細やかな悪戯で発覚したもの。
飛び散らした水が一瞬、宙に止まってたのだ。
跳躍における人体への影響を極力小さなものにしているのが、客車に刻まれた魔紋なのだ。
『マ、ま~じ~』
跳躍中は会話していても、たまに音声が途切れることがある。
ま一寸のことなので支障はごく僅かなんだけども。
いあ、今、すっごく間が長かった気がする。




