武王祭 騒動 8
緒戦の組み合わせは順当。
シード枠の方々とは、3回戦目からになるし。
それまでは草試合から勝ちあがった者たちで、目の肥えた観客さまのご接待って事に成る。
シード枠の連中は、
「先のリーズ王国式レイバーン流抜刀術の使い手、これはまあ、大本命とする。他に女神正教会から神殿騎士が2名エントリーしている。枠が最大で2つしか用意されなかったから、残りは草試合から順当に勝ち上がってるようだよ。オッズも悪くなかったね...ま、俺の目から見ても上品かつ優雅な、貴族の嗜みにも見えるんだが」
鼻頭を摘まみながら、警備隊長が屁をこく。
真横の官僚の目が怒りに満ちて、
「――なんだ、怖い顔して!」
「お前の屁だよ、何喰えば...ちくしょ!!」
受付書類で扇ぐものだから、周囲から怒りの「ん、んんんッ!!」ってのが漏れてる。
「で、剣客の戦闘力を数値化できるという、お前さんの眼力に神殿騎士さまらは如何、映ったかね?」
「レイピアの切っ先を、針穴に通すような緻密さがあった。あれは、そうした剣を振るうために努力してきた...血の滲むようなものがある。正にこういう試合向けした剣術だとおもったよ」
この言い方には、その後に見た、ヒルダの試合が関係する。
まさに悪鬼。
猿叫のような声を張り上げ、
身体を斜に向け、刀身は真っすぐ上段に構えてた。
振り下ろした動作も無く、巨漢の亜人族は膝から沈んだ。
この試合を見た官僚は、
自分の眼力を疑ったという。
瞬間的に数値が4桁に跳ね上がったと吐露している。
「猿叫か...確かに帝国式と、噂にある暗殺剣らしい特徴だけど。事実、これから殺す相手に自分っていう存在を知らしめる必要かどうかに...なんか腑に落ちないところがある。これが俺たちのような軍人にすれば」
「お前は市営の自警団どまりだろ?」
「いや、ほら...半ば兵士みたいなもんじゃ、な? そこから折られたら...俺っち、泣いちゃうぜ」
口ひげのエール泡を拭う。
まだ飲んでたというより、足元に散乱するカップから察するに...飲み過ぎである。
いくら仕事が無いんだとしても。
「俺は出納課の官僚だから、猿叫じゃなくても...『おらぁ~今から、お前を殺すぞ! うらあー』なんてドスの効いた声で撫でられたら、腰抜かすと思うわ。剣術の心得がある連中だって、噂の...ってのが脳裏を過るわけだよな?」
「ああ、過らないと言えばウソになるな。それでも自己防衛に足が動くかは...ああそうだ、それは場数だな。冒険者ギルドで依頼される、凶悪な猛獣とか魔獣でも...腹を空かせてなければ、うん。襲ってくることは無い。むしろ逃げるだろうし」
戦場でなら、お互いが死地。
その中で命の取り合いは別。
「猿叫、怖いな」
ちょっと納得。
「草試合のはいいから、他のシード枠は?」
「隣国のラグナル聖国からは、短槍の二刀流みたいのが来てたな。あと、同国からもうひとりは、拳闘士みたいなのが来ててな。不謹慎なとこが目立ちすぎて...なんていうか陽気というか」
隊長は再び腰を浮かす。
「おい、またか?」
「いや、ちと...おしっこ」
早く行ってこいてな具合で席から追い出された。
◇
警備隊長は、選手たちの控室ちかくまで寄る。
“関係者以外”っていう張り紙がある。
「手筈は整えた」
と、レシートを壁にもたれ掛かってた男に渡した。
聖国から来ている拳闘士が正体の男にだ。
「御武運を...」
と告げて、
警備隊長は来た道を戻っていく。
彼は、官僚の読み上げた情報から、彼らの所在を知った形だ。




