武王祭 騒動 7
草試合は、予定調和とは言え。
特段、特筆すべき波乱もなく粛々と終えた。
もっとも、こんなとこで大はしゃぎしたところで、だ。
誰が見てるかって...話。
目立ちたいなら本戦に上がれ、だ。
この一言に尽きる。
流石のあたしだって、そうする。
ただ、強敵となりうるようなのは予選で当たることが無かったようで――。
恐らくは大会運営の中に、操作する者が......いたみたいだね。
各々の予選を突破した、モブキャストたちが一堂に会する。
これは先ずは、お披露目が目的。
名前と顔を覚えさせる。
賭け試合の為の間だ。
あとは、シード枠の調整かな。
第一回戦ではそこそこに、と。
盛り上がって欲しいって誰もが思う。
「胡散臭い連中ばかりだな?」
剣を担いだ男が、顔見知った優男の横に座る。
彼もやや不機嫌そうに鼻を鳴らし、
「警備隊長さまが、こんな時に持ち場を離れても大丈夫で!」
「ああ、今朝になって近衛が仕切るってんだ。市営警備隊なんぞには、下請けの仕事でも回って来んよ...で、あればだ。後学の為に試合を見るくらいは、な。赦されるだろう?」
で、どんなのが上がってきたって問うている。
手元の資料は、あたしらが受付で交わしたキャストシート。
簡単な自己紹介みたいなもんだわ。
個人情報なんだけどね...役人ってのはこれだから。
「“黒鉄の冑団”の双斧使いが、今年も懲りずに参戦しているな。手斧を器用に振り回し、初見さまを翻弄するあたりは毎度のことだが...」
売り子の少年から、エールを買う隊長。
それを傍目で冷ややかに見る役人。
受付から拝借した資料で、オッズを予測中だ。
「そうそう、初見にしか通用しないのに会場を盛り上げる事には貢献している。ってことは、アレか!? この海賊は主催者が用意している宴会芸の達人ってトコか!!?」
「んな、わけあるか。参加費用が回収できるのは、本戦2試合目を勝ち上がった後だ。その手前で負けを繰り返すアレに金を払うバカも居らんだろ。盛り上げるなら、もう少しイレギュラーな趣向が欲しくなる...毎回、同じところで負けてっちゃ予測がついて面白くも無かろう」
これは賭けとしての展開だ。
試合の盛り上がりとは、別の話をしている。
事実。
2試合目にまで進んだ海賊は、初見殺しを封じられてからの粘り強さがあった。
屈強な大男が手斧を振り回す...短いリーチで、騎士を追い詰めたりするわけだから、観客としては血沸き肉躍るといったところだろうか。
ま、最後はスタミナ切れ...なんだけどね。
ここは毎回、同じらしい。
だから、八百長疑惑も持ち上がってる。
「で、注目の戦士は?」
と、問われても海千山千の野良戦士。
さてと...
「“鬼火”のシェシーと名乗る者と“左手甲”のヒルデ、あたりでしょうか。どちらも対照的な流派を記載しておりますし、或いは本物ということも...」
「ほう」
エールを煽る。
一息で飲み干すと、口元に白いひげをたくわえたまま、
「で、なに?」
「前者は“王国式抜刀術”と、後者は“帝国式一刀流”と」
いずれも戦場で、相まみえれば軍団の兵、数十や数百が一寸でなで斬りにされる剣術と語り継がれている。が、そうした戦場では尾ひれがつく。
生き残りが少なく、証言も遭遇場所から離れてたからとか、振り返ったら屍ばかりだったとか。
もう、頭の逝かれた話をしている自覚さえない。
「ほう...そうかい。そりゃ、面白そうだ」
「シード枠にも似たのがあるぜ...例の王国式、な。免許皆伝とか名乗ってる小娘が...シード枠、リーズ王国のレイバーン・ブラッドフォード卿が推薦しているとか、さ」
海向こうの大陸にある国。
“鬼火”もリーズ王国の膝元に行けば、勇者か英雄かってくらい称えられる。
ま、コンバートル王国と比較しちゃうと、だ。
リーズは大国、コンバートルは小国になるかな。




