YOUは、何しにバスラへ 2
ナーシリーヤ藩国の第二都市、バスラ。
大陸の最南端に位置し、港町であり、交易都市でもある地から内陸へは険しい道のりとなる。
しかもセーライムの影響がある地域まではひと月強は掛かり、実効支配地域までとなるとふた月ばかりは見ることになるだろうと。
この地から北方の内陸の国だからだ。
神の手を煩わすことなく為すならば、滞在は短い方がいい。
後輩の方は聖王都の端にある。
いつ国外へ逃れても大丈夫なほどの旅支度も整えていたし。
あたしらが何しにセーライムへ来たのかも告げても、彼女は『出ましょう』と言うのだろう。
そういう状況なので。
個人的にはマディヤたちには一刻も早く合流して貰いたい。
何せ頼り甲斐のある魔王ちゃんが、今は居ないのだから。
◇
アイヴァーさんの方は接触ではなく、痕跡を追う方に努めてた。
ともに歩いているマディヤは視線に気を注いで――何となくだが、感知したかもしれない感触を得た。
振り返らず。
その場で耳でも澄ませるよう、静かにそっと潜っていく。
500メートル、未だわずかに。
700メートル、少しは強くなった。
900メートル、気配が消えた。
「気づかれましたか?」
マディヤの真横からアイヴァーさんの声音。
彼は膝を突いて少女に声を掛けてた。
アイヴァーさんの胸ほどの身長しかないマディヤ。
親子でも通るし、兄妹でもナシムがキレはするだろうけども、ありえなくもない。
「むー、こちらの警戒心が強すぎる」
「気配が途切れた辺りまで行ってみますか?」
というか、彼の方が行きたがってる。
連れがあるので用心しての問なのだ。
「ゴルゴーンらを向かわせてもいいのだけど」
「こちらの手が読まれるのでは」
今更手駒が増えたところで、接触者が嫌うとは思えない。
アイヴァーさんの心配を他所に。
妹柱はたわわを突き出して、
「神を敵に回したことの報いを受けさせるだけじゃない!!!」
少し頼もしさがあった。
◇
路地に入る手前に印があった。
オオカミたちが遺す暗号のようなもので『樽の下』とあった。
宝探しみたいで面白いと、マディヤは他人事のように微笑む。
そりゃ、他人事だろう。
あんたは現役の神さまだしな。
「街はずれの貴族館だそうです」
仲間の使う暗号だが、やり取りは第三者のもので間違いない。
仮に組織から逃げ堕ちた“狗”の可能性もあるけど。
「行くのでしょう?」
「そうしたいんですが」
やはり巻き込むことに躊躇くらいはある。
傍にある少女は一笑に付して、肩もすくめた。
「巻き込むってんなら巻き込まれましょうよ。そうなった方がこちらも都合がいいわ!! だって、変なことにはもう巻き込まれっぱなしで、勝手にこっちを始末しようとしたんだもの」
やっぱり妹柱は逞しかった。




