白の狂信者たち 10
パンツの神さまの住まいだった祭壇にはもう、主人はいない。
しかし、だからと言って空き巣が入ってもいいという訳でもなく。
仮にいつか帰る場所かもしれないし。
ただ、唐突に家出しまっているだけかもしれない――危険を報せた後輩の手引きによって、密かに脱出して、今は薄衣の寝巻の深い影の向こう側からこっそり伺っているかもしれないって推測もできるし。
とにかくも、だ。
乙女神を最高神とする教会の下だとしても祭壇は、神と繋がる聖なる領域だってこと。
この世界には高次元の『神』が存在するのだから。
さてこの神秘を前にして。
各人の枢機卿たちが各々(おのおの)に武装して、紅司祭の個室に集結。
普段は互いに足の引っ張り合いをして仲が滅法悪い4人だが。
白の派閥の者ばかりが被害に遭ってることを由々しき事態だと、ようやく他の3人も重い腰を上げたのだ。いつかは自分たちに降り注ぐかもしれない、天罰に対する自己保身のための共闘というのが隠すことなく顕になってて。
「なあ、枢機卿らもさ。もう少しは本音を隠すもんじゃないかい?」
白の枢機卿のしわがれた声。
幾人もの巫女王の即位式を執り行ってきた長老としての威厳と。
法王とよばれる宗教上のトップを前にして『小僧』といえる胆力がある。
「生まれたばかりの無垢な存在に、善悪の概念なんて分らんだろ?!! だからこうして武装して何が悪いってんだ。短慮にも白の修道士らが嗾けたんだ、色で判別できるなら良し!」
良しじゃないよって声が張る。
「判別できなきゃ無差別だろ?!」
燃えるような真っ赤なローブを深々と被る小柄な者。
一見すると子供のように見えるけど、これでも齢200を超える魔女体質に悩む修道女。
悪魔や魔物から人々を守り続けていたら。
いつの間にか4人の枢機卿へ。
後輩もパンツに現を抜かしてなかったら。
いや、彼女のことだ『当方、蒸れるのは苦手ですから』とか、斜めに捉えるだろう。
赤の枢機卿に異端審問の機関は属していない。
教会内でも中立じゃないと正しく査定できなくなるからだそうな。
そういう身ぎれいさが求められるのに。
この子は“パンツの神さま”を生み出したのだ。
くぅー、俗物が! 恥を知れ!!!
◇
祭壇がある奥へ続く隠し扉を開く――目の前に飛び込んできたのは焼けた肉の良い匂いと。
たぶん置かれてたであろう台座のみだ。
迸るような凄まじいまでの放電の痕。
触れれば一瞬、感電して痛覚を感じる神経が焼き飛び、肌が瞬時に溶けて、芯から炭化する。
「マジか?!」
派閥の子らは、部屋の隅に爪先立ちで壁に張り付いてた。
ギリギリ放電から逃れきったのだ。
「生存者だ!」
「メンタルがやられてる、元からだとは思うが状態異常快癒の魔法を!!」
矢継ぎ早に枢機卿から発せられ。
白のババアが台座に寄る。
光は天井に空いた穴からまっすぐ祭壇を包んでた。
触れようと腕を伸ばすと、わずかに残った電気が指先に奔る。
「痛っ!」
「こら、無茶するな無茶を!! 救助活動中に我らまで巻き込んでくれるなよ、痴れ者」
不死を得た体をも炭化させようとする御業に驚愕。
焦げた指先がジンジンと痛みながら、やや時を擁して回復する。
人差し指の先を睨みながら、
『全快までに約2分半?!』
面白いと思ったかは、たぶん別の話だろうか。