白の狂信者たち 9
さて、同刻の空がにわかに黒くちっせぇー塊が教会の天井にある頃。
あたしらは無事にセーライム聖国の聖王都門前で、衛兵の検閲を受けていた。
轟雷は古来より神の手とされ。
巫女曰く『乙女神さま自身の手で各人の罪が濯がれる』と触れ出てた。
要するに、
これ以上面倒ごと増やすなって巫女か、或いは関係枢機卿からの舌打ちのようなもの。
解決する気もないので。
ことごとく神罰にて濯いでしまおうと考えた。
で、
再び轟音。
青い空の一点のみ。
ドス黒い影をまとった雲がある。
いくつもが天井に突き刺さらんとする尖塔が生えてる館の上に。
ぽつんと雲がある。
一見すると、雲は小さい。
あたりが真っ青なぴーかんの晴れ間という状況の中で、唯一、教会に天井にピン留めでもしたかのような雲の塊がひとつある。距離感と縮尺の関係上、雲の塊は小さく見えるだけで――
『パンツの赤ちゃん神さまはご立腹のようだね』
あたしの中で木霊する乙女神の声音。
お、なんか心臓がドキドキする。
『ささ、乙女神ちゃんと呼んでいいよ』
確か。
幾度か馬鹿にされた気がしたし。
妹とか呼びたくないとか...
はて?
「セル、んー。あれは紅さんですか!?」
ミロムさんがこちらに向かって走ってくるゴマのような黒い何かを指さした。
腕や指は、あたしの妄想で。
彼女はメイドですからと極端に巨大なバックパックを背負ってた。
そして腕と指は肩紐をぎゅっと掴んで脇を絞めてるわけで。
まあ、ぴくりとも動かせるはずも無いんだけど。
「アレです」
声を掛けるたびに。
あたしにはミロムさんの麗しい腕の幻覚を見ていた。
「ミロムさんの腕はうつくしいです」
「筋肉の話ですか?」
やや引かれたが。
否定はしないよ。
細腕に見えて、実は筋肉繊維がびっしりと詰まった剣士の腕。
憧れるぅ~
握力も魅力的だし、肩の方もいい。
無駄のない。
これがいい。
◇
あたしに何処から記憶があるのかと聞いたら、
そうだな――ミロムさんの腕の幻覚か、妄想にひとり悦に入ってたところだろ。
記憶と言うか、いや、完全に妄想でしかないけど。
ヘラヘラ涎も垂らしてた時。
あたしの意識が飛ぶ。
ミロムさんがしこたま警戒を促してたのに、だ。
突進してきた後輩をモロに受け止めて。
持ってたミニクラーケンの姿焼き、オクトパスのパイ包み揚げと、魔王の串焼きとか諸々。
両手から飛び散った、あたしのおやつたち。
しかも入ってた肺の中の空気さえ飛び出してた。
あ...
腹を抉るような角度だったんで。
その後輩の頭突きが。
たぶん...
食ってたぶんの中身も出たと思う。
こう、キラキラと。