にゃはは~ 落ちろ、落ちてお願い 5
天界にそれとなく壁をこさえた、あたし。
自作の壁の隅で、すんすんと鼻をすすりながらせせり泣く。
「ちょっと、うるさいよ」
乙女神の執務室からは衝立半分から見える程度のいやらしさ。
ヒルダさんに乱暴されて泣いてのと。
タダ働きが悲しくて泣いている分と、気分と雰囲気で泣いていた。
こう、女々しいと。
ツカツカと、ブーツの音が。
この大股は、アレですね――ヒルダさ、いあ、違ったお爺ちゃん?!
「剣の稽古をつけてやる」
え?
◇
天界では、多くの魂が避難してた。
原因は明白だけど。
神はコレを伏せて『すべては魔神の仕業である』と説いて回る。
いや、そういう強引な内容でギルドの賢者を動かした。
天界と、現界の両方から魔神を倒した英雄を称えよってノリにしてある。
まあ、そんな流れなので。
『人々の記憶は操作する』
おっと、問題発言ですね。
『セルの召喚んだ小惑星のひとつだけど』
ひとつしか呼んでないけど?
『中央アジアに落としとく。途中で砕けて、いくつかの気になる叛乱者どもの頭上を脅かし、吹き飛ばして掃除できれば御の字。仮に生き残るほどのしぶとさがあっても、200年、300年もすれば力も衰えるでしょう』
神の目でみる別の世界かな。
それはそれとして。
あたしの功績は?
『だから、あなたが堕とした石ころのせいで、国がひとつ...いえ、ふたつ滅びるんです』
ええ。
せいっても、直接的な関係はそう、多くないと思うんです。
優しく微笑む乙女神。
かつては“お姉ちゃん”と慕ってた人。
彼女が、執務室から見える中庭を指さして――『あれが難民ですよ? あの魂がもう一度肉体を持つかの瀬戸際だとして、、、、セル、あなたはどうしますか?』――どうしましょう? 事実を知る目撃者は多くない方がいいと思います。
我ながら人でなしだと思う。
魔王ちゃんでも言いそうな気がする。
『前々から思ってたんですが、実妹ながらあなた、クズですね!!』
どっこいだと思います。
セクハラされたから、一掃したいって持ちかけるのもどうかと。
『人聞きの悪い。そんなストレートに口にしたら身も蓋もないではありませんか!! そこは大人対応でオブラートに包みながら、ゴミはゴミ、片付けないと異臭を放ちますって感じです』
いあ。
言い方。
包んでもねえし、セクハラの方が理由としてはマシな気がする。
ただ、神としても。
世界に英雄という超越した新しい秩序と、勇者召喚にかかるコスト削減のために。
目撃者はやはり多くは残したくない。
ついでに言うと、英雄の持つスキルは継承が可能という点以外は、とにかくローコスト。
「セルの徳を担保に、ヒルダをベースとした13人目の英雄を用意してくれないか?」
フラつく魔王ちゃんは滅多に見たことがない。
しばらく揉みしだかれて弄ばれてた。
楽しんでたヒルダに天罰も与え、恐る恐る近寄ろうとしてた後輩にくぎを刺したとこだが。
「今、なんと?」
「セルの徳だ、徳。実は相当あるんだろ?!」